インドはどうやって中国軍の「侵入」を撃退したのか
Did India Just Win?
だが、中印関係の根本的な問題が消えたわけではない。中国の影響力拡大と、定期的な実効支配線侵害は、今後もインドにとって最大の戦略的課題であり続けるだろう。このためインドは、対外戦略の3つの見直しを進めている。
第1に、軍の重点配備地域を北西部から北東部にシフトさせた。これまでインドが最も警戒してきた相手はパキスタンだったが、今後は中国になるだろう。既に陸・空・海軍の再編は始まっている。
「中国の孤立化」を急げ
第2に、中国との経済的デカップリングは今後も迅速に進むだろう。もちろんインドが譲歩しなければならない場面もいくつかあるだろうが、両国経済の軌道が異なる方向を向き始めたことは、今や明白だ。
日米豪印のいわゆるクアッドは、中国のパワーの源泉が自由主義経済の国々との経済的な相互依存関係であることに気付きつつある。従って中国を軍事的に抑止するためには、中国を経済的に孤立させる必要がある。これは短中期的にはクアッド諸国に痛みをもたらすだろうが、長期的には中国の痛みのほうが大きくなるだろう。
第3に、インドは引き続き、欧米諸国との協調路線を強化するだろう。これまでは、物質的および地位的な便益をるためにアメリカに追随していたが、今は、生き残りのためにアメリカと歩調を合わせる必要がある。インドが中国に対抗するテクノロジーや資金、武器を確保するためには、アメリカをはじめとするクアッドが必要不可欠だからだ。
パンゴン湖周辺からの中印両軍の撤退は、ひとまず両国間に緊張緩和をもたらしているが、根本問題が解決したわけではない。中国の軍事的台頭と領土拡張志向を考えると、今後も定期的な武力衝突は避けられないだろう。
インドが中国の弱いものいじめに立ち向かうためには、真に有効な軍事的抑止法を手に入れる必要がある。インド政府はそのために、これまでにない努力をする決意のようだ。このことは中印関係だけでなく、インド太平洋地域全体の地政学をも、新たな段階に移行させるだろう。
<本誌2021年3月9日号掲載>
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