最新記事

中印紛争

インドはどうやって中国軍の「侵入」を撃退したのか

Did India Just Win?

2021年3月4日(木)18時30分
ハーシュ・パント(英キングズ・カレッジ・ロンドン国際関係学教授)、ヨゲシュ・ジョシ(国立シンガポール大学南アジア研究所研究員)

中国との国境紛争が生じている地域で補給物資を運ぶインド軍の車両 Yawar Nazir/GETTY IMAGES

<小競り合いが続いていたカシミール地方でインドが中国軍を押し返した戦術と戦略>

インドと中国は2月10日、過去50年間で最大の衝突が生じていた国境紛争で、一部地域からの撤退を開始した。

実効支配線を挟んだにらみ合いは続いているが、今回問題となったインド北東部、ラダック地方のパンゴン湖周辺では、両軍が装甲車などを撤収する様子が衛星写真などで確認された。インドと中国は、領有権争いのある地域を「緩衝地帯」とも呼んでいる。

この結果にインドは大喜びしているに違いない。実効支配線を侵害してインド側に入り込んできた中国軍を、事実上追い返したのだから。

今回の衝突が始まったのは2020年5月のこと。中国軍が実効支配線をまたいでインド側に侵入し、インド軍のパトロール活動を妨害するとともに、野営地や集落を設置したのだ。それは地理的にも規模的にも、局地的とか限定的と呼ぶレベルを超えていた。

中国軍6万人が集結

世界が新型コロナウイルス感染症への対応に追われている間に、中国は実効支配線付近に6万人ともいわれる兵力を集めて、インド側に圧力をかけ始めた。

これは1962年の中印国境紛争後に辛うじて維持されてきた均衡を脅かしただけではない。両国軍はパンゴン湖の北に位置するガルワン渓谷で実際に衝突して、インド兵20人が犠牲になったのだ。

インドのナレンドラ・モディ首相にとっては、メンツをつぶされた格好にもなった。17年にブータン西部のドクラム高地で、やはり中国が実効支配線を越えてブータン側に侵入し、応援に駆け付けたインド軍と衝突したとき、モディは中国の習近平(シー・チンピン)国家主席に直接対話を申し入れる「大人の対応」をしていたからだ。

中国がコロナ禍のどさくさに紛れて実効支配線を越えて、本来インド領とされていた地域の領有権を既成事実化するつもりだったとすれば、ガルワン渓谷での衝突は致命的なミスとなった。インドは中国のゴリ押しを受け入れるどころか、断固立ち向かう決意を固くしたからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4

ビジネス

ECB、12月にも利下げ余地 段階的な緩和必要=キ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中