聞こえてきた英連合王国分裂の足音
しかし、EU離脱を強制された現在では、独立は、EU再加盟の道を拓く希望となる。ジョンソン政権は、自治権の拡大や連邦化は否定しており、スコットランドの独立阻止の明確な戦略があるとは言い難い。ジョンソン政権内の内紛で、連合王国の求心力維持のために立ち上げた「連合ユニット」のトップに就任した首相の側近が僅か2週間で辞任に追い込まれるなど体制も定まらない。
そもそも離脱キャンペーンを主導した首相とその側近らが、スコットランドのつなぎ留めに役立つと考えることに無理がある。世論調査でスコットランドにおける独立支持が不支持を上回るようになったのはEUを正式離脱した後であり、スコットランドの民意を切り捨てた離脱の強行が、ジョンソン首相の政治手法やコロナ対策への不満も加わって、スコットランドの独立機運を高めていると考えられる。
スコットランドの独立は経済的な打撃が大きいという独立反対派の主張は今も基本的に正しいが、財政や年金、経済への打撃に関する試算は、独立阻止のための嘘と見る独立賛成派もいるだろう。「経済的打撃は独立して主権を取り戻すコストとして敢えて受け入れる」という判断が加われば、独立支持が過半を上回る可能性は十分にある。ちょうど英国が、主権の奪還のために、EUからの「ハードな離脱」へと進んだように。
2016年のEU離脱の是非を問う国民投票では、ジョンソン首相らが率いた離脱キャンペーン団体は、EU離脱のコストを強調したキャメロン元首相らの残留キャンペーンを「恐怖プロジェクト」と揶揄した。
そのジョンソン政権が、スコットランドの独立機運を削ぐために、独立の経済的なコストを強調する「恐怖プロジェクト」に訴え、却ってスコットランドを独立に近づけてしまう皮肉な展開になるのだろうか。
[執筆者]
伊藤 さゆり (いとう さゆり)
ニッセイ基礎研究所
経済研究部 研究理事
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