最新記事

イギリス

聞こえてきた英連合王国分裂の足音

2021年3月2日(火)14時45分
伊藤 さゆり(ニッセイ基礎研究所)

他方、スコットランドでは、独立の是非を問う住民投票への動きが具体化しつつある。今年5月6日の議会選挙で、独立の是非を問う住民投票を掲げる与党・スコットランド民族党(SNP)は地滑り的な勝利を収める見通しだ。住民投票に関わる世論調査では、調査ごとにばらつきがあるものの、直近まで21回連続で、独立賛成派が反対派を上回っている(図表2)5。英紙サンデー・タイムス委託の4地域での世論調査6においても、スコットランドは独立国となるべきかへの回答では「はい」が52%、「いいえ」が48%で、特に16~34歳の若年層では「はい」が71%を占め、逆に、55歳以上では「いいえ」が62%を占める傾向も顕著に顕れた(いずれも「わからない」を除いたベース)。

2014年9月のような法的拘束力のある住民投票の実施には、英議会からスコットランド議会への権限委譲(Section 30 Order)7が必要になるが、ジョンソン首相は拒否している。SNPのスタージョン党首は、権限委譲を受けて行う住民投票を「プランA」としつつ、それが認められない場合、「プランB」として、諮問的な住民投票を強行し、そこで示されたスコットランドの民意の合法性について、裁判所に判断を仰ぐ構えもみせている8。議会選挙で、SNPが大勝した場合には、ジョンソン政権が権限移譲を却下し続けるだけで、事態を収拾することは難しいと見られている。

Nissei210302_Brexit2.jpg

スコットランドの独立機運を削ぐ有効な手段はあるのだろうか。

2014年の住民投票は、英政府が自治権拡大の方針を示すとともに、独立はスコットランドの経済的な豊かさにも、EUの再加盟にもつながらないという説得が効果を発揮した。直前の世論調査では、独立賛成が反対を7ポイントも上回るような場面もありながら9、最終的に反対55.3%という結果に落ち着いた。

原油高を前提とする独立推進派の財政見積もりは甘く、独立は年金の減額につながるリスクがあること、スコットランドの財の輸出入の6割を占める連合王国との結び付きが重要であること、通貨の面では、英国政府は、ポンドの継続利用を前提とする独立推進派の方針を否定、独立した新規加盟国としてEUに加盟すればユーロ導入が義務になり、主権が制限されることも示唆した。そもそも独立国としてEUに加盟しようとしても、スペインのように分離独立問題を抱える国は、飛び火をおそれてスコットランドの加盟に反対するため、加盟国の全会一致の要件が満たされることはない、つまり独立はEUからの離脱につながると警鐘が鳴らされた。

────────────────
5 https://www.businessforscotland.com/author/polling-news/
6 https://www.drg.global/wp-content/uploads/Sunday-Times-Tables-for-publication-260121.pdf
7 「1998年スコットランド法」の第30条の通常は英国議会が有する権限をスコットランド議会に一時的に認める条項に基づくためSection 30 Orderと呼ばれる。
8 専門家の間では、諮問的な住民投票については、合法だが、独立を実行することは非合法と見られている。また、法的な正当性のある住民投票でなければ、独立反対派はボイコットする可能性が高く、投票率の面で合法性が疑われる事態が予想されることから、「プランB」には反対も強い。
9 https://web.archive.org/web/20140915025140/http://www.icmresearch.com/data/media/pdf/2014_ST_scotland_poll.pdf

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中