聞こえてきた英連合王国分裂の足音
他方、スコットランドでは、独立の是非を問う住民投票への動きが具体化しつつある。今年5月6日の議会選挙で、独立の是非を問う住民投票を掲げる与党・スコットランド民族党(SNP)は地滑り的な勝利を収める見通しだ。住民投票に関わる世論調査では、調査ごとにばらつきがあるものの、直近まで21回連続で、独立賛成派が反対派を上回っている(図表2)5。英紙サンデー・タイムス委託の4地域での世論調査6においても、スコットランドは独立国となるべきかへの回答では「はい」が52%、「いいえ」が48%で、特に16~34歳の若年層では「はい」が71%を占め、逆に、55歳以上では「いいえ」が62%を占める傾向も顕著に顕れた(いずれも「わからない」を除いたベース)。
2014年9月のような法的拘束力のある住民投票の実施には、英議会からスコットランド議会への権限委譲(Section 30 Order)7が必要になるが、ジョンソン首相は拒否している。SNPのスタージョン党首は、権限委譲を受けて行う住民投票を「プランA」としつつ、それが認められない場合、「プランB」として、諮問的な住民投票を強行し、そこで示されたスコットランドの民意の合法性について、裁判所に判断を仰ぐ構えもみせている8。議会選挙で、SNPが大勝した場合には、ジョンソン政権が権限移譲を却下し続けるだけで、事態を収拾することは難しいと見られている。
スコットランドの独立機運を削ぐ有効な手段はあるのだろうか。
2014年の住民投票は、英政府が自治権拡大の方針を示すとともに、独立はスコットランドの経済的な豊かさにも、EUの再加盟にもつながらないという説得が効果を発揮した。直前の世論調査では、独立賛成が反対を7ポイントも上回るような場面もありながら9、最終的に反対55.3%という結果に落ち着いた。
原油高を前提とする独立推進派の財政見積もりは甘く、独立は年金の減額につながるリスクがあること、スコットランドの財の輸出入の6割を占める連合王国との結び付きが重要であること、通貨の面では、英国政府は、ポンドの継続利用を前提とする独立推進派の方針を否定、独立した新規加盟国としてEUに加盟すればユーロ導入が義務になり、主権が制限されることも示唆した。そもそも独立国としてEUに加盟しようとしても、スペインのように分離独立問題を抱える国は、飛び火をおそれてスコットランドの加盟に反対するため、加盟国の全会一致の要件が満たされることはない、つまり独立はEUからの離脱につながると警鐘が鳴らされた。
────────────────
5 https://www.businessforscotland.com/author/polling-news/
6 https://www.drg.global/wp-content/uploads/Sunday-Times-Tables-for-publication-260121.pdf
7 「1998年スコットランド法」の第30条の通常は英国議会が有する権限をスコットランド議会に一時的に認める条項に基づくためSection 30 Orderと呼ばれる。
8 専門家の間では、諮問的な住民投票については、合法だが、独立を実行することは非合法と見られている。また、法的な正当性のある住民投票でなければ、独立反対派はボイコットする可能性が高く、投票率の面で合法性が疑われる事態が予想されることから、「プランB」には反対も強い。
9 https://web.archive.org/web/20140915025140/http://www.icmresearch.com/data/media/pdf/2014_ST_scotland_poll.pdf