注目される米国のインフレリスク──当面はインフレ高進がコンセンサスも、持続的なインフレ加速の可能性で分かれる評価
このため、2000年以降は労働需給の逼迫が物価上昇に繋がり難いと言える。実際に新型コロナ流行前(20年2月)の失業率は3.5%とおよそ50年ぶりの水準に低下していたが、PCE価格指数はFRBの物価目標(2%)を下回っていた。
今後もフィリップス曲線の平坦な状況が持続する場合には、景気過熱に伴う労働需給の逼迫を背景とした持続的なインフレ高進の可能性は低いとみられる。
一方、労働需給と物価が60年~80年代にみられたような関係性に戻る場合には、持続的なインフレ高進が示現する可能性はある。筆者はそのような状況が発生するのは、何らかの要因でFRBに対する信認が揺らぎ、期待インフレ率が持続的に上昇するインフレのパラダイムシフトが生じる場合と考えている。
もっとも、FRBは持続的なインフレ高進に対して、金融市場や実体経済への影響を度外視すれば、政策金利の引き上げによって対応することが可能なため、パラダイムシフトが生じる可能性は低いだろう。
(当研究所はインフレの持続的な高進リスクは低いと判断)
当研究所これまでみたベース効果やペントアップディマンドによるインフレ押上げは一時的と考えている。また、追加経済対策の物価に与える影響についても、大規模な追加経済対策を今後も続けていくことは困難とみられることから、追加経済対策に伴う景気過熱は一時的とみられるため、労働需給と物価の関係性が今般の追加経済対策で大きく変化する可能性は低いと判断しているほか、長期の期待インフレ率が持続的に上昇していく可能性は低いと判断している。このため、サマーズ氏が主張するような大幅なインフレ高進の可能性は低いだろう。
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1 https://www.washingtonpost.com/opinions/2021/02/04/larry-summers-biden-covid-stimulus/
2 https://paulkrugman.substack.com/p/stagflation-revisited
[執筆者]
窪谷 浩 (くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所
経済研究部 主任研究員
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