最新記事

物価上昇

注目される米国のインフレリスク──当面はインフレ高進がコンセンサスも、持続的なインフレ加速の可能性で分かれる評価

2021年2月25日(木)19時12分
窪谷 浩(ニッセイ基礎研究所)

このため、2000年以降は労働需給の逼迫が物価上昇に繋がり難いと言える。実際に新型コロナ流行前(20年2月)の失業率は3.5%とおよそ50年ぶりの水準に低下していたが、PCE価格指数はFRBの物価目標(2%)を下回っていた。

今後もフィリップス曲線の平坦な状況が持続する場合には、景気過熱に伴う労働需給の逼迫を背景とした持続的なインフレ高進の可能性は低いとみられる。

一方、労働需給と物価が60年~80年代にみられたような関係性に戻る場合には、持続的なインフレ高進が示現する可能性はある。筆者はそのような状況が発生するのは、何らかの要因でFRBに対する信認が揺らぎ、期待インフレ率が持続的に上昇するインフレのパラダイムシフトが生じる場合と考えている。

もっとも、FRBは持続的なインフレ高進に対して、金融市場や実体経済への影響を度外視すれば、政策金利の引き上げによって対応することが可能なため、パラダイムシフトが生じる可能性は低いだろう。

(当研究所はインフレの持続的な高進リスクは低いと判断)

当研究所これまでみたベース効果やペントアップディマンドによるインフレ押上げは一時的と考えている。また、追加経済対策の物価に与える影響についても、大規模な追加経済対策を今後も続けていくことは困難とみられることから、追加経済対策に伴う景気過熱は一時的とみられるため、労働需給と物価の関係性が今般の追加経済対策で大きく変化する可能性は低いと判断しているほか、長期の期待インフレ率が持続的に上昇していく可能性は低いと判断している。このため、サマーズ氏が主張するような大幅なインフレ高進の可能性は低いだろう。

-----
1 https://www.washingtonpost.com/opinions/2021/02/04/larry-summers-biden-covid-stimulus/
2 https://paulkrugman.substack.com/p/stagflation-revisited

kubotani.png[執筆者]
窪谷 浩 (くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所
経済研究部 主任研究員

20241203issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年12月3日号(11月26日発売)は「老けない食べ方の科学」特集。脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす最新の食事法。[PLUS]和田秀樹医師に聞く最強の食べ方

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エヌビディア、音楽や音声を生成する新たなAIモデル

ビジネス

トランプ氏、中国に10%追加関税表明 メキシコ・カ

ワールド

中国「貿易戦争に勝者なし」、トランプ氏の関税発言受

ワールド

インド食品価格、数カ月で上昇鈍化の見込み 夏の豊作
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 4
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    テイラー・スウィフトの脚は、なぜあんなに光ってい…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 9
    日本株は次の「起爆剤」8兆円の行方に関心...エヌビ…
  • 10
    バルト海の海底ケーブル切断は中国船の破壊工作か
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中