注目される米国のインフレリスク──当面はインフレ高進がコンセンサスも、持続的なインフレ加速の可能性で分かれる評価
(新型コロナや景気後退の賃金への影響は軽微)
雇用統計における時間当たり賃金(前年同月比)はPCEやCPIとは対象的に新型コロナ流行前(20年2月)の+3.0%から、20年4月に+8.2%をつけた後、21年1月が+5.4%と新型コロナ流行を大幅に上回る賃金の伸びを示している。もっとも、これは新型コロナの影響で賃金水準の低い娯楽・宿泊業などで大幅に雇用が喪失した影響によるもので、実態を反映していない。
そこで、産業および業種について固定比率を用いることでこれらの雇用シフトの影響を受けない雇用コスト指数をみると、民間企業と州・地方政府を合わせた賃金・給与(前年同期比)が20年12月に+2.6%と、雇用統計とは対照的に20年3月の+3.1%を下回っていることが分かる(図表2)。また、20年の変動幅は+2.5%~+3.1%と限定的だ。
さらに、付加給付も含めた雇用コスト(前年同期比)も12月が+2.5%と20年3月の+2.8%を下回っているものの、20年の変動幅は+2.4%~+2.8%とさらに狭いレンジに収まっており、新型コロナや景気後退に伴う時間当たり雇用コストへの影響は軽微となっていると言えよう。
(金融市場でインフレ織り込みの動きも、家計・専門家の中長期インフレ見通しは安定)
金融市場が織り込む米国の期待インフレ率(ブレークイーブンインフレ率、BEI)は、昨年の春先に急落した後は上昇基調が持続しており、足元で今後5年間の平均インフレ率予想が+2.2%と14年以来、今後10年間の平均インフレ率予想が+2.4%と13年以来の水準となった(図表3)。
また、期待インフレ率の上昇を背景に、米国債のイールドスプレッド(10年金利―2年金利)は17年以来の水準となる1.2%ポイントまで拡大しており、イールドカーブのスティープ化が進んでいる。
一方、家計が予想する今後1年間のインフレ率予想(前年同月比)は20年4月の+2.1%から反発し、21年2月は+3.3%と13年2月(+3.3%)以来の水準となるなど上昇が顕著となっている(図表4)。
もっとも、短期見通しとは対照的に今後5年~10年の平均インフレ率(前年同月比)では21年2月が+2.7%と昨年の春以降安定しており、足元でインフレ率予想は高まっていない。
次に、経済の専門家が予想する消費者物価の今後5年間と10年間の平均インフレ率予想は21年第1四半期がいずれも+2.2%と数年来安定しており、こちらもインフレ率予想に高まりは見られない。