最新記事

物価上昇

注目される米国のインフレリスク──当面はインフレ高進がコンセンサスも、持続的なインフレ加速の可能性で分かれる評価

2021年2月25日(木)19時12分
窪谷 浩(ニッセイ基礎研究所)

3.インフレ見通し

(今後のインフレ上昇はコンセンサス)

PCEやCPIは足元で物価上昇圧力が限定的となっているものの、以下の様々な要因から、今後はインフレ率の上昇が見込まれる。

インフレ率が上昇する要因として先ず指摘できるのは、昨年の春先に大幅に低下した反動(ベース効果)によって、物価が前月比で横這いでも前年比でみたインフレ率が持ち上げることだ。実際に、21年1月のCPIが前月比で横這いとなる場合でも、前年同月比では1月の+1.4%から4月と5月に+2.0%へ+0.6%ポイント上昇することが試算される。もっとも、昨年の春先以降はCPIが持ち直したため、ベース効果は逆に年後半のCPIを押し下げる方向に働くため、一時的な押し上げ効果に過ぎない。

次に指摘できるのは、新型コロナ流行拡大と感染対策としてのソーシャルディスタンシングの確保などで昨年に需要が大幅に落ち込んだ対面型サービス業などで経済の正常化に伴って消費が持ち直すペントアップディマンドの影響だ。個人消費は20年の3月から4月に大きく落ち込んだ後、経済活動の再開や家計への直接給付、失業保険の追加給付などの経済対策の効果もあって回復基調に転じた(図表5)。もっとも、財とサービスの内訳をみると、耐久財や非耐久財が新型コロナ流行前を上回る水準に回復した一方、サービス消費は依然として流行前の水準を下回っており、回復が遅れていることが分かる。これはソーシャルディスタンシングの影響で消費したくても消費できない状況が背景にあるとみられる。

このため、米国ではワクチン接種の進捗に伴い、今後はソーシャルディスタンシングが徐々に解消することが見込まれるため、サービス消費の回復がサービス価格の上昇を通じてインフレ率を押し上げることが予想される。

実際にCPIにおける航空運賃やホテル宿泊料は前年同月比で▲10%台から▲20%台の大幅な落ち込みとなっていた(図表6)。これらのサービス価格が新型コロナ流行前に戻る場合にはCPIを合計で+0.4%ポイント程度押し上げられよう。

motani5-6.jpg

また、20年12月の貯蓄率が13.7%と新型コロナ流行前の7%台を大幅に上回っており、個人消費は、消費余力が十分に残している。さらに、昨年12月に9,000億ドル規模の追加経済対策が成立し、家計向けの直接給付や失業保険の追加給付が決まったことから、消費余力をさらに押し上げるとみられる。このため、サービス業のペントアップディマンドのみならず、経済の正常化に伴う消費需要の大幅な増加はサービス価格だけでなく全体のインフレ率を引き上げる要因となろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIとの合弁設立が大幅遅延

ワールド

韓鶴子総裁の逮捕状請求、韓国特別検察 前大統領巡る

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結

ビジネス

首都圏マンション、8月発売戸数78%増 価格2カ月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中