注目される米国のインフレリスク──当面はインフレ高進がコンセンサスも、持続的なインフレ加速の可能性で分かれる評価
3.インフレ見通し
(今後のインフレ上昇はコンセンサス)
PCEやCPIは足元で物価上昇圧力が限定的となっているものの、以下の様々な要因から、今後はインフレ率の上昇が見込まれる。
インフレ率が上昇する要因として先ず指摘できるのは、昨年の春先に大幅に低下した反動(ベース効果)によって、物価が前月比で横這いでも前年比でみたインフレ率が持ち上げることだ。実際に、21年1月のCPIが前月比で横這いとなる場合でも、前年同月比では1月の+1.4%から4月と5月に+2.0%へ+0.6%ポイント上昇することが試算される。もっとも、昨年の春先以降はCPIが持ち直したため、ベース効果は逆に年後半のCPIを押し下げる方向に働くため、一時的な押し上げ効果に過ぎない。
次に指摘できるのは、新型コロナ流行拡大と感染対策としてのソーシャルディスタンシングの確保などで昨年に需要が大幅に落ち込んだ対面型サービス業などで経済の正常化に伴って消費が持ち直すペントアップディマンドの影響だ。個人消費は20年の3月から4月に大きく落ち込んだ後、経済活動の再開や家計への直接給付、失業保険の追加給付などの経済対策の効果もあって回復基調に転じた(図表5)。もっとも、財とサービスの内訳をみると、耐久財や非耐久財が新型コロナ流行前を上回る水準に回復した一方、サービス消費は依然として流行前の水準を下回っており、回復が遅れていることが分かる。これはソーシャルディスタンシングの影響で消費したくても消費できない状況が背景にあるとみられる。
このため、米国ではワクチン接種の進捗に伴い、今後はソーシャルディスタンシングが徐々に解消することが見込まれるため、サービス消費の回復がサービス価格の上昇を通じてインフレ率を押し上げることが予想される。
実際にCPIにおける航空運賃やホテル宿泊料は前年同月比で▲10%台から▲20%台の大幅な落ち込みとなっていた(図表6)。これらのサービス価格が新型コロナ流行前に戻る場合にはCPIを合計で+0.4%ポイント程度押し上げられよう。
また、20年12月の貯蓄率が13.7%と新型コロナ流行前の7%台を大幅に上回っており、個人消費は、消費余力が十分に残している。さらに、昨年12月に9,000億ドル規模の追加経済対策が成立し、家計向けの直接給付や失業保険の追加給付が決まったことから、消費余力をさらに押し上げるとみられる。このため、サービス業のペントアップディマンドのみならず、経済の正常化に伴う消費需要の大幅な増加はサービス価格だけでなく全体のインフレ率を引き上げる要因となろう。