最新記事

ポピュリズム

トランプの敗北が世界的に見て「異例」だった理由

RARE DEFEAT FOR AUTOCRATS

2021年2月18日(木)06時30分
ハビエル・コラレス(米アマースト大学教授、政治学者)

まず、勝つには団結が必要だ。独善的ポピュリストが権力を握ると、反対勢力は分断されやすい。ポピュリストの政権下では国民に怒りや不満がたまり、反政府勢力が増えるのは自然な流れだ。

しかしポピュリストに敵対する勢力はイデオロギー的に多様だ。左派もいれば右派もいるし、中道派もいる。だから一本化するのが難しい。

こうした反政府派がそれぞれの党派を形成し、いがみ合うようでは選挙に勝てない。反政府派が割れていたら、権力を握ったポピュリストとその熱烈な支持者には勝てない。

magSR20210218raredefeat-2.jpg

元祖ポピュリスト政治家のベネズエラのウゴ・チャベス CARLOS GARCIA RAWLINS

アメリカの場合、民主党は団結を実現してトランプに勝利した。急進的な左派を排除せず、保守的な穏健派も取り込み、過去の共和党政権に仕えた外交官や財政のプロも味方に付けた。

強力な二大政党制を前提とするアメリカの選挙制度が効いたのも事実だ。州ごとに過半数を制した者が当該州の選挙人を総取りする仕組みがある限り、州単位で過半数の票を勝ち取れる見込みの薄い小さな政党は存立しにくい。

一方、選挙戦で最も重要だったのは「過激に走らない程度の大胆さ」だ。極端に走って分裂することを避けつつ、古い殻を破る大胆さを民主党は持ち合わせていた。

穏健派の白人男性ジョー・バイデンを大統領候補に選び、アジア系とアフリカ系の血を引く女性カマラ・ハリスを副大統領候補に選んだのがその証拠。この選択は人種とジェンダーの殻を破るものだったが、一方でアメリカの築き上げてきた伝統を(破棄して一新するのではなく)守るというメッセージを送るものでもあった。

まだ完全な勝利ではない

全国的に盛り上がった抗議活動への対応も、過激に走らない程度に大胆だった。熱狂的な支持者に支えられた独善的なポピュリスト政権は、ともすればそれ以外の人たちを露骨に無視する。

だからトランプ流の男性上位主義とセクハラ黙認の姿勢には女性たちが猛反発し、警察による黒人への暴力には人種の壁を越えた抗議運動が起きた。

しかし、こうした抗議活動への対応は難しい。時には反政府勢力への追い風になるが、暴動や略奪まで行けば逆風になる。

だが今回の民主党はうまく立ち回った。抗議の声は支持しつつ、そのエネルギーを街頭行動から投票行動へ、巧みに誘導することに成功した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中