トランプの敗北が世界的に見て「異例」だった理由
RARE DEFEAT FOR AUTOCRATS
まず、勝つには団結が必要だ。独善的ポピュリストが権力を握ると、反対勢力は分断されやすい。ポピュリストの政権下では国民に怒りや不満がたまり、反政府勢力が増えるのは自然な流れだ。
しかしポピュリストに敵対する勢力はイデオロギー的に多様だ。左派もいれば右派もいるし、中道派もいる。だから一本化するのが難しい。
こうした反政府派がそれぞれの党派を形成し、いがみ合うようでは選挙に勝てない。反政府派が割れていたら、権力を握ったポピュリストとその熱烈な支持者には勝てない。
アメリカの場合、民主党は団結を実現してトランプに勝利した。急進的な左派を排除せず、保守的な穏健派も取り込み、過去の共和党政権に仕えた外交官や財政のプロも味方に付けた。
強力な二大政党制を前提とするアメリカの選挙制度が効いたのも事実だ。州ごとに過半数を制した者が当該州の選挙人を総取りする仕組みがある限り、州単位で過半数の票を勝ち取れる見込みの薄い小さな政党は存立しにくい。
一方、選挙戦で最も重要だったのは「過激に走らない程度の大胆さ」だ。極端に走って分裂することを避けつつ、古い殻を破る大胆さを民主党は持ち合わせていた。
穏健派の白人男性ジョー・バイデンを大統領候補に選び、アジア系とアフリカ系の血を引く女性カマラ・ハリスを副大統領候補に選んだのがその証拠。この選択は人種とジェンダーの殻を破るものだったが、一方でアメリカの築き上げてきた伝統を(破棄して一新するのではなく)守るというメッセージを送るものでもあった。
まだ完全な勝利ではない
全国的に盛り上がった抗議活動への対応も、過激に走らない程度に大胆だった。熱狂的な支持者に支えられた独善的なポピュリスト政権は、ともすればそれ以外の人たちを露骨に無視する。
だからトランプ流の男性上位主義とセクハラ黙認の姿勢には女性たちが猛反発し、警察による黒人への暴力には人種の壁を越えた抗議運動が起きた。
しかし、こうした抗議活動への対応は難しい。時には反政府勢力への追い風になるが、暴動や略奪まで行けば逆風になる。
だが今回の民主党はうまく立ち回った。抗議の声は支持しつつ、そのエネルギーを街頭行動から投票行動へ、巧みに誘導することに成功した。