現役医師が断言、日本の「ゆるいコロナ対策」が多くの命を救った
ワクチンの接種開始で日本のコロナ対策も大きな山を越えた。医師の大和田潔氏は「ゆるい対策と人々の協力で被害は小さく、最適解だったといえる」という。 Issei Kato - REUTERS
日本のコロナ対策は失敗だったのか。医師の大和田潔氏は「海外では厳しい規制をかけても大きな被害が出た。日本の対応はメディアに否定的に報道されているが、緩やかな規制と人々の協力で被害は小さく、最適解だったといえる」という――。
日本人の気質
私たち日本人は、謙遜と謙譲を美徳としてきました。つらくても努力し続け、その上で評価を待つ。自らを鍛え、成果をあげて人から評価されることを受動的に待つことを教えられて育ちます。
目的と手段が本末転倒になり、最短で目的が達成するよりも努力し続ける非効率さが美徳とされることもよくあります。細かいところまで気を配り、「石橋をたたいて渡る」ことが日常茶飯事です。さらに武士道の文化もあわさり、自己研鑽の美徳と統合されています。
たとえうまくいっても「それほどでも」と謙遜し、決して「うまくいったでしょ! スゴイでしょ」なんて自慢しません。みんなで一緒に行動することを良しとし、誰かが独り占めすることを良しとしません。少ない国土でも多くの国民が公平に平和に暮らせる、奥ゆかしさの工夫の中で培われた知恵だと思っています。
これまでの日本の新型コロナウイルスへの対応は否定的に報道されたり、考えている人が多く見受けられます。しかし私は完璧だと考えています。
「イヤイヤ全然ダメでしょ」と即座に否定されそうです。
でも現実を見てみましょう。
日本は先進国の中ではとりわけ新型コロナによる被害は少なく、流行は下火になっています。人々のいさかいもほとんどありません。政府と人々の対立もなく、みんなで協力してなんとか乗り越えたと言えるでしょう。
私は、新型コロナは蔓延後に収束しすでに「季節性ウイルス」になったと考えています。国内では抗原検査は不要になりつつあると思っています。陰性を証明しないと、食事や観光などができないのは理に合いません。季節性になっている新型インフルエンザも通年で存在していますが検査は行われないからです。
日本の3つの勝因
私は、日本の勝因は3つに整理できると考えています。
1つ目は、日本の保険医療システムが充実し基礎疾患を日頃からあまねく管理できていたことや、重篤化した人々も医療者が献身的に治療できたことだと思います。高度な医療機材や治療薬を有して使えることや、国民の教育度も高いことも含まれます。
教育度が高いことは、ウイルスの概念を理解しマスクの必要性を実感したり、飲食店での飛沫経口感染を予防するための緊急事態宣言を国民全体で実行することにつながります。
2つ目は、清潔観念が徹底していることです。疫病が繰り返しはやることに対応し、靴を脱いで入浴が好きで部屋にあがり手洗いうがいをするといった個人個人の日常保清、下水道などの都市設計、ネズミや蚊など媒介動物を駆除などもふくめた人間を守る公衆衛生の総合力です。
3つ目は、季節性コロナウイルスにさらされてきたことと公的補助による小児ワクチンと高齢者の肺炎球菌ワクチンの徹底などによる獲得免疫の恩恵が大きいと思っています。
この3つの条件がそろっていたため、実効性をもちつつ経済被害を最小限にする「ユルユル対策」が奏功したのだと思っています。乳児から高齢者まで健康管理やフリーアクセスをあまねく提供してくれている国民皆保険による保険医療制度を、今後も大切にしなくてはいけません。
新型コロナは、日本人が普段から積み重ねてきたこうした努力によって、甚大な健康被害を減らすことができることを教えてくれたと思っています。
厳重な管理は効果が少ない
日本とは比較にならない厳格な対応をしている海外の国々は沢山あります。
中国では、武漢で新型コロナウイルスが発生した際に新設病院を短期間で造り、全国の軍隊所属の医療班を招集し制圧し、感染を完全に鎮圧したと考えられていました。
ところが2021年1月になり、患者が発生した都市を容赦無くロックダウンし、市民が困窮していることが報道されました(注1)。2月近くになっても情け容赦無くプライバシーも無く、肛門から検体を採取するという徹底した検査もおこなわれています(注2)。