ネットでつながる、ミャンマーの抵抗運動は進化を遂げた
Can Myanmar’s Protesters Succeed?
若い活動家によれば、こうした混乱は逆に楽観的な空気をもたらしている。旧世代の精神を受け継いだ上にネットという武器を持つ彼らにとって、現在の活動は「軍はけんかを売る世代を間違えた」という反抗のメッセージだ。
10年ほど前から多くの世界の有識者たちが、ミャンマーを民主化の成功例と見なしていた。しかし国内の、特に少数民族や宗教的少数派の研究者は、権力が軍部からアウンサンスーチー国家顧問の率いるNLDに移っても、ほとんど変わりはないと捉えていた。これまで抑圧が繰り返されてきたので、体制が変わると聞かされても、にわかには信じられなくなっていた。
クーデター前、ミャンマーの人々は2つの時代のことをよく話していた。不確かな政治的移行の時代と、民主主義が芽生える時代の話だ。
いま人々は「新時代」について語っている。NLDも15年の総選挙に勝利した後には、「新時代」の到来を約束した。しかしNLDが大勝した昨年の総選挙を軍が不正選挙と見なしたことが、ミャンマーを古い時代の光景に引き戻した。
SNSでは現在と過去が交錯している。07年の僧侶たちによる反政府デモや1988年の学生運動の様子が、古い写真やニュース映像から掘り起こされてアップされている。ジャーナリストのエイミンタンは、今の状況が「子供の頃に見た光景と全く同じ」というおばの言葉をツイッターで伝え、共感を集めた。
多くの市民が、長いこと忘れていた習慣を再び身に付けた。ドアの鍵を増やしたり、窓のカーテンをしっかり閉めたりするようになった。
鍋をたたくデモ参加者
2月1日、ヤンゴンの夜が更けてから現地の友人に電話した。「前にも経験しているから必要なことは分かっている」と彼女は言い、翌朝の予定を挙げた。飲料水を確保し、市場に食料を買い出しに行き、銀行で現金を下ろす──。軍が存在感を強めるなかで、通貨が使えなくなるとか、パニック買いが起きそうだといった噂が飛び交っている。今の世代の体験が崩壊し、気が付けば親や祖父母の時代に戻ったかのようだ。
クーデターが起きて2日目、抗議運動に参加した若者たちは鍋やフライパンをたたいて悪霊を退散させようと呼び掛けた。昔からある悪霊払いの方法だが、1988年の民主化運動では重要な戦略となった。このとき学生たちが始めた民主化運動には、何十万人もの市民が参加した。
2021年のヤンゴンでは、午後8時ちょうどに鍋が打ち鳴らされた。最初はまばらだった金属音が翌日には市外へと広がり、そこへ自動車のクラクションや抗議のシュプレヒコールが加わった。