最新記事

ミャンマー

ネットでつながる、ミャンマーの抵抗運動は進化を遂げた

Can Myanmar’s Protesters Succeed?

2021年2月17日(水)16時30分
コートニー・ウィテキン(社会人類学者)

軍のクーデターに抗議するヤンゴンのデモ参加者(2月6日) REUTERS

<街頭のデモ参加者は旧世代の精神と新しいツールを携えて軍との闘いに挑む>

国軍兵士たちが政府要人を拘束し始めた2月1日の早朝、ミャンマー(ビルマ)のSNSにはこんな疑問が飛び交った。「この国は時間を逆行しているのか?」

ヤンゴンやマンダレーといった主要都市に戦車が現れ、ハイウエーを封鎖している光景は、軍による1962年のクーデターや88年の民主化運動弾圧を思い起こさせた。

軍はヤンゴン市役所に兵を派遣し、首都ネピドーでは数百人の国会議員を軟禁。与党・国民民主連盟(NLD)本部にも入った。

こうした衝撃的な光景に、芽吹いたばかりのミャンマー民主主義の終焉を見た人たちもいる。彼らはこの日を忘れまいとして、SNSの投稿に「1・2・21」という日付を合言葉のように加えていた。まだその日付が変わらないうちからだ。

確かに事態は、過去の争乱と不思議なほど似かよっていた。ミャンマーは62年に軍が初めて実権を握ったときに戻ってしまうのか。全国に広がるクーデターへの抗議は、88年や2007年の反政府デモのときのように激しい弾圧にさらされるのか。

しかしミャンマーでは、負の歴史も価値を持つ。いま反クーデター活動を率いる学生たちは、旧世代の民主化運動から学んでいる。市民との連帯を通じて軍の支配への不服従を呼び掛ける手法は、過去と共通している。ただし、異なる点が1つ。それは、若きリーダーたちが今度こそはうまくいくと自信を持っているように見えることだ。

クーデターの直後から活動家たちは、軍とつながる企業のボイコットやストをネット上で呼び掛けた。しかし、軍は即座に取り締まりに動いた。2月1日にネットが断続的に遮断されたことが伝えられた後、当局は主要SNSへのアクセスをブロックする命令を発出。6日からの2日間は、全国のネット接続率が通常の16%にまで低下した。

ネットの遮断は、軍を恐れて大規模な抗議運動への参加をためらっていた人々を街頭に連れ出すきっかけになった。ヤンゴンでは、住民や職場の同僚グループが連れ立ってデモに繰り出していた。「こういうことを30年続けてきた。最後までやる」と、ミャンマーのある研究者は筆者に語った。6日のネット遮断から1時間もたたないうちに、労働者や学生がヤンゴンの中心部に集まり始めた。

その翌日、ヤンゴンのデモは数万人規模に膨らみ、各地に波及し始めた。普段は抗議運動などほとんど起きないネピドーでも、8日には人々が声を上げ始めた。

治安部隊はここで放水銃をデモ隊に向け、実弾も発砲。9日には女性が頭部を撃たれて重体となり、武力による鎮圧の予感が漂い始めた。

「新時代」は来なかった

SNSでは、軍がお得意の鎮圧法を取っているという書き込みが拡散した。暴力と脅しに加えて、私服警官と雇われた扇動者による攪乱が行われているという。

それでもデモは今も続いている。暴力が起こり、外出や集会が禁止され、道路が封鎖されても、人々は通りに繰り出す。ゼネストによって銀行が閉鎖され、航空便は欠航を余儀なくされ、新型コロナウイルスのワクチン接種計画の実施が危ぶまれても、通りを埋める人波は減らない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中