最新記事

ジェンダー

結婚は女性にとって収入の「損失」?

2021年2月17日(水)15時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

日本では家庭を持った女性の稼ぎは少なくなる kyonntra/iStock.

<日本の未婚者と既婚者の収入を比較すると、女性の場合は結婚によって収入が大きく下がる傾向が見られる>

人の一生はいくつかのステージに分けられる。心身の発達に即して言うと、乳幼児期、児童期、思春期、青年期、成人期、老年期というように区分できる。社会的な役割の上では、教育期、仕事期、引退期という大雑把な分け方が一般的だ。段階ごとの節目には、学校入学(卒業)、就職といったイベントが用意され、自分の役割の自覚を促される。

就労を通して社会の維持・存続に与する社会人であることに加え、人間はまた「家庭人」としての顔も持つ。自分の巣を維持し、未来を担う子どもを産み育て、さらには自由の利かなくなった家族をケアすることだ。いわゆる家事・子育て・介護だが、無給であるにもかかわらずかなりの重労働で、社会人としての仕事と両立するのは容易でない。日本では長らく、仕事は男性、家事・家族ケアは女性という性役割分業で社会が築かれてきた。

今では仕事をする女性が増えているが、女性は家庭を持つとバリバリ働くのが難しくなる。25~54歳の有業男女を未婚者と既婚者に分け、年間所得の中央値を年齢層別に出し、折れ線でつないだグラフにすると<図1>のようになる。

data210217-chart01.png

男性は未婚者より既婚者の所得が高く、年齢を上がるにつれて差が開いていく。既婚男性の場合、家族の扶養手当なども支給されるためだろう。男性の場合、高収入の人が結婚しやすいということもあるかもしれない。

女性にあっては逆に、未婚者より既婚者の稼ぎが少ない。既婚者の所得は40代前半まで下がっていく。幼子の育児でフルタイム就業が制限されることに加え、配偶者控除の恩恵に預かろうと就業調整をする人がいるためと考えられる。日本は年功賃金と言うが、まともな昇給があるのは既婚男性だけで、昔ながらの性役割分業観が未だに根強いことが、所得の年齢カーブから見て取れる。

ちなみに正社員に限っても、同じようなグラフになる。女性においてはやはり、既婚者の折れ線は未婚者より下にある。データは出せないが、高学歴の女性に絞ったら2本の折れ線の乖離は甚だ大きくなるだろう。結婚の損失というか、それが意識されるようになっていることも、未婚化が進む一因と言えるかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中