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北朝鮮金正恩「拷問要員」が忽然と消え騒然、向かった先は......
今年1月に開催された朝鮮労働党第8次大会に出席した金正恩 KCNA/REUTERS
北朝鮮で最近、韓国を目指し船で脱北を試みる事例が相次いで起きた。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、今年1月のある凪の日、1隻の漁船が、船長とその妻、息子、20代の船員4人の合計7人を載せて清津(チョンジン)港を出港した。
周到に脱北を準備していた船長は出港後、家族と船員を説得し、韓国へ向かうことに同意させた。しかしエンジンの故障で、一行はあえなく逮捕されてしまった。
一方、黄海に面した北朝鮮の港から、木造船が忽然と姿を消した。それも3隻同時で、4人の乗組員も一緒だったために大事件となり、現地は大騒ぎになっている。
現地のデイリーNK内部情報筋によると、事件が起きたのは昨年末のこと。場所は黄海南道(ファンヘナムド)の龍淵(リョンヨン)郡だ。まず、事が大きくなった理由は、姿を消した4人の顔触れにある。
4人は夢琴浦(モングムポ)の海水浴場管理所の保衛指導員とその家族、そして朝鮮人民軍(北朝鮮軍)を除隊したばかりの1人という顔ぶれだ。保衛指導員は、拷問や公開処刑で恐怖政治を支えてきた秘密警察の要員である。他の誰が脱北するよりも、社会的なインパクトが大きい。
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また、現場の場所柄も問題だった。郡内には、黄海に突き出した長山串(チャンサンゴッ)という岬があるが、そこから15キロほど南下すると、白翎島(ペンニョンド)という島にたどり着く。実はこの島、韓国領だ。韓国の仁川(インチョン)から200キロ離れているが、北朝鮮までは十数キロという極めて特殊なロケーションにある。
この保衛指導員は、船に乗って海上を漂うゴミを回収する作業を熱心に行っていたが、作業をより円滑に進めるために、各機関の許可を得た上で、木造船をさらに3隻をレンタルした。
ところが、3隻は作業開始前の昨年末、港から姿を消してしまったのだ。不審に思った海水浴場の管理所の職員が、龍淵郡安全部(警察署)と保衛部(秘密警察)に通報した。彼らが出動して、ようやく船とともに4人が姿を消したことも確認された。
保衛部は捜索に乗り出したが、見つけたのは、岸からかなり離れた防波堤のそばで漂っていた2隻の船だけ。彼らが船に乗って越南、つまり脱北して韓国に向かったものと見ている。だが、韓国政府は脱北者の入国について、一部の例外を除き公式には確認しない姿勢を取っており、4人が韓国にたどり着いたかどうかはわかっていない。
この海域では、以前から船に乗って、或いは泳いで韓国にたどり着き亡命する事例が起きている。
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[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ--中朝国境滞在記--』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。