イギリスのCPTPP加盟申請は中国に痛手か?
要するにイギリスの紳士淑女が嫌った「塩素消毒したネズミの毛入りの鶏肉」に関して、アメリカが譲歩するか否かということである。たかが鶏肉、されど鶏肉だ。
イギリスは、今度はアメリカに跪(ひざまず)く必要はなくて、アメリカに跪かせる側に立つことができる。その点は、誇り高きイギリスにとっては悪い気分ではないだろう。
結果、アメリカが折れて、仮に他のメンバー国もアメリカを認めて、アメリカがCPTPPに戻ったとすれば、中国を除いて大きな経済圏ができるので、米英ともに得をしたことになる。この場合、中国は完全に締め出されることになるだろう。
しかし逆にアメリカが、「そんな屈辱的な譲歩はしない」としてCPTPPに戻ろうとしなかった場合、あるいはアメリカ国内の白人貧困労働者層の反対を受けて戻ってこなかった場合を考えてみよう。となると現状でCPTPPの経済規模は約10 兆ドルで世界シェアの約13%に過ぎないので、米・中という大きな経済体の前では影が薄い。中国がもし、「俺を入れないようにしようというのなら、入ってやらないよ」と逆方向を向くかもしれない。となると、中国を入れてでもCPTPPの存在を強化させたいという願望が、もしかしたらメンバー国から出てくるかもしれない。
中国はどう考えているのか――中国問題グローバル研究所の中国代表に聞いた
その辺りはメンバー国の現状や意識調査をしなければならないので、今回はあくまでも、「中国はイギリスのCPTPP加盟申請をどう見ているか」にテーマを絞るしかない。 そこで、シンクタンク中国問題グルーバル研究所の中国側代表である孫啓明研究員(北京郵電大学経済管理学院教授)に、中国の本音を聞いてみた。以下に示すのは孫啓明教授の回答である。
――簡単に述べるならば、二点ほど挙げることができます。
先ず、現在の世界情勢から見た時に、いかなる国あるいは経済組織も、米中という二つの大国のパワーゲームのツールになっており、どの国も経済組織も中国とアメリカから逃れることはできません。中国とアメリカが互いにパワーゲームの切り札として、それぞれ一つの経済組織を指導するか、あるいは中米それぞれがいくつかの経済組織の中に同時に入っているかのいずれかの形式が考えられます。実際、CPTPPはそのいずれでもなく、日本は本当の主人公ではありません(筆者注:日本がCPTPPの中で経済規模が一番大きいと言っても、それは暫定的なものに過ぎず、本当の主人公はアメリカだ)。イギリスの現在の経済規模と世界での地位から考えても日本に追いつくだけの力はないので、イギリスがCPTPPに入ったところで別に気にする必要はないし、中国は、日英などがアメリカに追随して中国を包囲しようと試みても、気にしていません。CPTPPは米中パワーゲームの場でしかないのです(筆者注:イギリスがCPTPPに入るか否かは何の関係もなく、アメリカが入るか否かだけが問題だ、という趣旨)。中国にとっては、RCEPがあれば十分にアメリカと対抗できます。この二つの経済組織は、基本的に拮抗しています(筆者注:RCEPの規模は世界のGDPや貿易額・人口の約30%を占める。CPTPPの規模を遥かに上回り、世界第二の経済大国である中国が入っている)。