最新記事

中国

イギリスのCPTPP加盟申請は中国に痛手か?

2021年2月15日(月)11時41分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

しかし、一羽の鶏が、もしかしたらアジア太平洋情勢に地殻変動をもたらすとしたら、これは笑い事では済まされない。

イギリスが加盟した場合の米中の動き

アメリカがダメなら、ブレグジットによって「グローバル・ブリテン」を掲げてきたイギリスとしては、CPTPPに加入する以外に選択肢はなかっただろう。中国とはキャメロン政権時代に中英黄金時代を築いたが、それも今は儚い夢。トランプが「俺と仲良くしたいのなら、まずファーウェイを排除してみせろ」と迫ったものだから、ボリス・ジョンソン首相は今年9月からファーウェイの5G製品を新規購入しないと約束し、2027年までには全てのファーウェイ製品をイギリスから締め出すと誓いを立ててしまっている。だから中国との仲が険悪だ。パートナーとして中国を選ぶ可能性も一時期は推測されたが、その道も断たれた。

となるとイギリスにはCPTPPを選ぶ道しか残されてないのである。

実は何も「チャゴス島」を虫メガネで拡大して見せなくとも、CPTPPにはニュージーランドとオーストラリアおよびカナダという、かつての大英帝国の傘下にあったイギリス連邦の国が3ヵ国も入っている。イギリスがCPTPPに加盟すれば、アメリカを除くファイブアイズの4ヵ国がCPTPPにいることになる。

ここにアメリカが戻ってくれば、ファイブアイズが揃うのである。

ファイブアイズという、暗号による秘密情報を共有する組織をイギリスが提起した時の敵は日本であり、ドイツ(特にエニグマ)、イタリアだった。その日本が現在のCPTPPの中ではGDP規模が最も大きいので、日本が「日本を倒すために設立された組織」であるファイブアイズに入るという、皮肉な可能性も出てくる。

となれば、イギリスを入れたCPTPPは、ファイブアイズ設立時の味方国であった中国を、今度は敵に回して「対中包囲網」を形成する可能性も出てくるわけだ。

そのとき肝心なのはアメリカの出方と、アメリカに対するイギリスの反応だろう。その考察にはいくつかのケース・スタディを試みなければならない。

まず、アメリカがCPTPPに戻る意思を表明した時のことを考えてみよう。

バイデン政権は、今は内政問題(コロナ、経済、国内分裂)を解決しなければならず、外交どころではないだろう。しかし何年かのち、アメリカが戻る意思を表明した時に、そこには確実にメンバー国としてイギリスがいる。

さて、このときイギリスは、アメリカに対してどのような態度をとるだろうか?

「お前は私を、かつては鶏肉を使って侮蔑した。CPTPPに入りたいなら、鶏肉に関して謝罪し、譲歩せよ」と迫って、「足蹴にした(トランプ政権だった)アメリカ」に恨みを晴らすだろうか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ベライゾン、過去最大の1.5万人削減へ 新CEOの

ビジネス

FRB、慎重な対応必要 利下げ余地限定的=セントル

ビジネス

今年のドル安「懸念せず」、公正価値に整合=米クリー

ワールド

パキスタン、自爆事件にアフガン関与と非難 「タリバ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中