最新記事

バイデンvs中国

天下分け目の対中テクノロジー戦争、バイデンは技術的優位を死守せよ

FIGHT ON TECH, NOT TRADE!

2021年1月30日(土)14時00分
サルバトーリ・バボネス(シドニー大学社会学准教授)

中国の通信・半導体産業を追い詰める対中テクノロジー戦争の行方は DADO RUVIC-REUTERS

<今や米中の主戦場はテクノロジー、貿易や製造業の国内回帰に固執するといった時代遅れの考えは捨てよ>

(本誌「バイデンvs中国」特集より)

政権が新しくなっても、貿易政策は古いままか──。

1月20日に任期が切れるドナルド・トランプ米大統領と、ジョー・バイデン新大統領には無数の違いがある。だが貿易分野、特に対中貿易に関しては、バイデンはトランプさえも上回る保護主義者だ。

バイデンは、中国に対してさらに「積極的な貿易上の措置」を取ると公約しただけではない。連邦政府が米製品購入に4000億ドルを投じる「バイ・アメリカン」計画を実現するため、政府調達に関するルールの変更も提案した。これは日本やEUが異議を唱えそうな政策だ。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で、国家間でマスクや人工呼吸器の争奪戦が始まる前から、2020年は「脱グローバル化」の年だった。アメリカでは昨年、輸出入額が共に前年比で低下。それまでの約10年間、横ばい状態を続けた後の出来事だ。

とはいえ「グローバル化=貿易」といまだに考えているなら、その見方はあまりに古い。今や世界を結ぶのはコンテナ船ではなくテクノロジー。成功のカギは技術ネットワークでの優位にあることを、バイデンは学ぶべきだ。

一部製造業のリショアリング(国内回帰)を目指すのは悪い考えではないが、それではインド太平洋地域の地経学的パワーバランスの転換は実現しない。対中テクノロジー戦争は通信機器大手の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)に打撃を与え、中国の半導体工場を厳しい圧力にさらし、TikTok(ティックトック)を米事業売却の瀬戸際に追い詰めている。中国に対して本気で強硬姿勢で臨むつもりなら、バイデンはこの戦いを強化すべきだ。

トランプの貿易戦争は実際のところ、中国からの輸入の減少に成功。増大が不可避とみられた対中依存は、逆の傾向を示している。

ただし、アメリカの貿易赤字全般に本質的な影響は見られない。サプライチェーンが中国からほかの東アジア諸国に移ったにすぎないからだ。

自給自足経済の薄い実現性

これは中国にとって悪い知らせだ。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は資材の国内調達強化などを促す「双循環(2つの循環)」戦略を掲げるが、これは環太平洋地域の供給体制に起きた大転換の結果である可能性が高い。

バイデンのバイ・アメリカンと習の双循環は共に、自給自足経済へのシフトを告げている。そして、どちらも成功の見込みは薄い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド、米株ポジション再び積み上げ 世界的

ビジネス

アングル:今週のFOMC、トランプ氏政策で一変した

ワールド

ドイツ財政拡張案、議員らが憲法裁に採決阻止求める

ビジネス

中国の1月スマホ出荷、iPhoneなど海外ブランド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自然の中を90分歩くだけで「うつ」が減少...おススメは朝、五感を刺激する「ウォーキング・セラピー」とは?
  • 2
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 3
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研究】
  • 4
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴…
  • 5
    「紀元60年頃の夫婦の暮らし」すらありありと...最新…
  • 6
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 7
    エジプト最古のピラミッド建設に「エレベーター」が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 9
    『シンシン/SING SING』ニューズウィーク日本版独占…
  • 10
    奈良国立博物館 特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」…
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 3
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 4
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 5
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 8
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴…
  • 9
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 10
    中国中部で5000年前の「初期の君主」の墓を発見...先…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中