最新記事

米政治

トランプ主義への対処を誤れば、トランプは「英雄、殉教者、スローガン」になる

ACCOUNTABILITY OR UNITY

2021年1月27日(水)18時15分
スティーブ・フリース(ジャーナリスト)

ウォーターゲート事件で辞任したニクソン(左)を後任のフォードは恩赦したが、直後の世論調査では国民の53%が恩赦に反対した(1973年10月) BETTMANN/GETTY IMAGES

<トランプを恩赦すべきか、説明責任を追及すべきか。そしてトランプ派をどう扱うか。バイデンはウォーターゲート事件後以上に難しい舵取りを迫られている>

(本誌「バイデン 2つの選択」特集より)

ドナルド・トランプ前大統領の説明責任という重大な問題について判断を下すのは誰しもが難儀するだろう。大統領に就任したジョー・バイデンならなおさらだ。沈黙が続くのも無理はない。

78歳で民主党古参のバイデンは、厳格なアプローチより団結と和解を説くほうが性に合うようだ。1月6日の連邦議会議事堂への襲撃を受けて正義を求める声が高まるなか、バイデンはトランプ弾劾を公然とは(側近によれば私的にも)支持せず、上院に有罪評決を迫ってもいない。
20210202issue_cover200.jpg
襲撃の扇動、州高官に対する選挙結果の改ざん圧力などの容疑で刑事捜査を行うか否かの判断は、司法省と司法長官に指名したメリック・ガーランド連邦高裁判事に任せる構えだ。一方、ウォーターゲート事件の際のような恩赦で今回の「長い国家的悪夢」を終わらせることも考えていないという。

とはいえ、国内の深い分裂とトランプの説明責任追及を求める圧力の高まりにどう対処するか、バイデンはこれ以上だんまりを決め込むわけにもいかないだろう。

「倫理的な指導者として、トランプがしてきたことを倫理的に拒絶するのが、バイデンの仕事」だと、バイデンの選挙広告を手掛けたメディアコンサルタントのクリフ・シェクターは言う。「アメリカ人の善良な部分に訴えるだけでなく、トランプのようなやり方はしないと示すのだ。トランプがアメリカに与えたダメージについて明言する必要がある」

その上でバイデンは、一見止めようのない勢力(トランプ支持者)と動かし難いもの(トランプに対する処分を求める民主党議員)の間に入り、双方を導いていかなければならない。

バイデンは「癒やし」か「正義」かの二者択一を拒み、自身は思いやりのある老政治家として和解に集中、容疑と裁判の証拠集めについてはガーランドと検察に任せると、側近らはみている。

バイデンは1月14日に新型コロナ関連の1兆9000億ドルの追加経済対策案を発表。自身のアプローチについてこう強調した。

「団結は非現実的な夢ではない。私たちが一つの国として共に成し遂げなければならないことへの現実的な一歩だ」

そのために、新大統領は主導権を握れること(自身が提案するイニシアチブについて広く発信するなど)に重点を置くべきだと、バイデン陣営内の関係者らは指摘する。法案の根拠とメリットを、トランプ支持者と民主党の支持基盤双方の関心を引くような形で提示することが不可欠だという。

「トランプが2024年の大統領選に出馬可能かどうか、ツイートか何かで騒ぎ立てられるかどうかについて、バイデンにできることはない」とガーランドの指名承認を目指す政権移行チーム関係者は言う。

トランプが上院での弾劾裁判で有罪になれば再出馬は不可能だが、それには共和党議員のうち少なくとも17人が賛成する必要があり、決めるのは彼らだとバイデンは考えているという。(編集部注:1月26日、上院はトランプを弾劾裁判で裁くことは「違憲」だとして退ける決議案を反対多数で否決したが、反対に回った共和党議員は5人に留まり、弾劾裁判で17人が賛成する可能性は低くなった)。

「彼にできるのは、トランプ支持者の生活が良くなれば怒りが和らぐと期待して、彼らの不満に向き合う政治課題を強調することだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震、死者1700人・不明300人 イン

ビジネス

年内2回利下げが依然妥当、インフレ動向で自信は低下

ワールド

米国防長官「抑止を再構築」、中谷防衛相と会談 防衛

ビジネス

アラスカ州知事、アジア歴訪成果を政権に説明へ 天然
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 9
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中