トランプ主義への対処を誤れば、トランプは「英雄、殉教者、スローガン」になる
ACCOUNTABILITY OR UNITY
ウォーターゲート事件で辞任したニクソン(左)を後任のフォードは恩赦したが、直後の世論調査では国民の53%が恩赦に反対した(1973年10月) BETTMANN/GETTY IMAGES
<トランプを恩赦すべきか、説明責任を追及すべきか。そしてトランプ派をどう扱うか。バイデンはウォーターゲート事件後以上に難しい舵取りを迫られている>
(本誌「バイデン 2つの選択」特集より)
ドナルド・トランプ前大統領の説明責任という重大な問題について判断を下すのは誰しもが難儀するだろう。大統領に就任したジョー・バイデンならなおさらだ。沈黙が続くのも無理はない。
78歳で民主党古参のバイデンは、厳格なアプローチより団結と和解を説くほうが性に合うようだ。1月6日の連邦議会議事堂への襲撃を受けて正義を求める声が高まるなか、バイデンはトランプ弾劾を公然とは(側近によれば私的にも)支持せず、上院に有罪評決を迫ってもいない。
襲撃の扇動、州高官に対する選挙結果の改ざん圧力などの容疑で刑事捜査を行うか否かの判断は、司法省と司法長官に指名したメリック・ガーランド連邦高裁判事に任せる構えだ。一方、ウォーターゲート事件の際のような恩赦で今回の「長い国家的悪夢」を終わらせることも考えていないという。
とはいえ、国内の深い分裂とトランプの説明責任追及を求める圧力の高まりにどう対処するか、バイデンはこれ以上だんまりを決め込むわけにもいかないだろう。
「倫理的な指導者として、トランプがしてきたことを倫理的に拒絶するのが、バイデンの仕事」だと、バイデンの選挙広告を手掛けたメディアコンサルタントのクリフ・シェクターは言う。「アメリカ人の善良な部分に訴えるだけでなく、トランプのようなやり方はしないと示すのだ。トランプがアメリカに与えたダメージについて明言する必要がある」
その上でバイデンは、一見止めようのない勢力(トランプ支持者)と動かし難いもの(トランプに対する処分を求める民主党議員)の間に入り、双方を導いていかなければならない。
バイデンは「癒やし」か「正義」かの二者択一を拒み、自身は思いやりのある老政治家として和解に集中、容疑と裁判の証拠集めについてはガーランドと検察に任せると、側近らはみている。
バイデンは1月14日に新型コロナ関連の1兆9000億ドルの追加経済対策案を発表。自身のアプローチについてこう強調した。
「団結は非現実的な夢ではない。私たちが一つの国として共に成し遂げなければならないことへの現実的な一歩だ」
そのために、新大統領は主導権を握れること(自身が提案するイニシアチブについて広く発信するなど)に重点を置くべきだと、バイデン陣営内の関係者らは指摘する。法案の根拠とメリットを、トランプ支持者と民主党の支持基盤双方の関心を引くような形で提示することが不可欠だという。
「トランプが2024年の大統領選に出馬可能かどうか、ツイートか何かで騒ぎ立てられるかどうかについて、バイデンにできることはない」とガーランドの指名承認を目指す政権移行チーム関係者は言う。
トランプが上院での弾劾裁判で有罪になれば再出馬は不可能だが、それには共和党議員のうち少なくとも17人が賛成する必要があり、決めるのは彼らだとバイデンは考えているという。(編集部注:1月26日、上院はトランプを弾劾裁判で裁くことは「違憲」だとして退ける決議案を反対多数で否決したが、反対に回った共和党議員は5人に留まり、弾劾裁判で17人が賛成する可能性は低くなった)。
「彼にできるのは、トランプ支持者の生活が良くなれば怒りが和らぐと期待して、彼らの不満に向き合う政治課題を強調することだ」