未曽有の危機で船出のバイデン政権 傷ついた「アメリカの魂」を再生できるか
それでも連邦議会議事堂占拠事件は、バイデン氏の任期序盤に影を落とすだろう。上院でトランプ氏の弾劾裁判が開かれる以上、政権発足当初からバイデン氏が掲げる政策を法制化に十分手が回らず、重要閣僚指名承認が遅れても不思議ではない。
カギ握る議会との関係
トランプ氏就任時に比べて、バイデン氏の方が世論の追い風は強いだろう。ロイター/イプソスの世論調査では、バイデン氏の直近の支持率は53%と有権者の過半数を確保しているが、4年前のトランプ氏は46%だった。
バイデン氏にとっての好材料は、多数の国民が同氏なら議会と良好な関係を築けると期待していることだ、とジョージタウン大学政治・公共サービス研究員のエグゼクティブディレクター、モー・エライジー氏は語る。
エライジー氏は、議会との協調に前向きなバイデン氏の姿勢について「過去4年間われわれが置かれてきた状況から決別し、国民を一安心させる上で大いに役立つと思う」と高く評価している。
思い起こせば政治家としては「素人」だったトランプ氏は、議会の立法手続きと常に折り合わず、話し合いの場で自身の優先する政策を披露するのを断るケースもままあった。その挙げ句、大統領権限で何とか政策目標を達成しようと画策したのだ。
逆にバイデン氏は、オバマ政権時代に副大統領に就任するまで、デラウェア州選出の上院議員として35年の歳月を過ごしたベテラン政治家と言える。
とはいえバイデン氏には、上下両院で与党・民主党の優位が盤石とは程遠く、同氏が自由に動ける余地が乏しいという問題も抱えている。
下院ではペロシ議長が民主党左派から、できるだけ幅広い国民層に救済措置を講じ続けるよう圧力を受ける見込み。しかし包括的な対策を上院で可決しようとすれば、共和党側の支持が必要になり、共和党内にはそうした大規模な支援策に懐疑的な議員が存在する。
早速試されるのは、バイデン氏と上院共和党のマコネル院内総務の関係性だ。かつて共和党全国委員会の幹部だったダグ・ハイア氏は、新型コロナ対策に関してはマコネル氏がバイデン氏に協力する動機があると指摘。「観光、航空、飲食店などさまざまな業種が休業し、米国の全ての地域に影響が及んでいる」とその理由を説明する。
ただバイデン氏のチームが対策の中に、連邦ベースの最低時給を15ドルとするなどの左派的な措置を盛り込んだため、共和党の反発を招いて紛糾してしまうかもしれない。
政治疲れの癒やし
新型コロナ対策より先の話になれば、事態はもっとややこしくなる。オバマ政権時代、マコネル氏ら共和党幹部はオバマ氏の政策への反対姿勢を貫くことを選挙戦略と定め、まず2010年の中間選挙で下院の多数派を奪回した後、結局上院も握ったため、せっかくオバマ氏が掲げた野心的な政策はほとんど頓挫してしまった。その一部始終を、バイデン氏は目撃してきた。
まして新議会で民主党がかろうじて多数派となる点からすれば、バイデン氏は慎重に振る舞って、共和党につけいる隙を与えないようにするしかない。つまり同氏が打ち出した2兆ドルの気候変動対策を議会に付すのをひとまず見送り、当面は大統領令で対応することになる、というのが側近の見立てだ。
一方、バイデン氏には1つ感謝すべき材料がある。就任初日からトランプ氏によるツイッターを通じた「口撃」にさらされなくて済むということだ。トランプ氏が政治活動を取りやめると予想する人は誰もいないが、ツイッターのアカウントを永久停止されたため、バイデン政権が被る「迷惑」はその分軽くなるだろう。
ブリンクリー氏は、トランプ氏がずっと選挙結果に異議を唱えたことや連邦議会議事堂占拠事件で国民の神経がぼろぼろになったので、バイデン氏は単に就任しただけで1つの政治的成果を得られると断言。「これまで政治に振り回された1年で皆が疲弊している。ようやく新大統領を迎えたという気分によって、不安が大いに和らぐ」と述べた。
(James Oliphant記者)
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