最新記事

トランプは終わらない

無邪気だったアメリカ人はトランプの暴挙を予想できなかった

WE CANNOT BE COMPLACENT ANYMORE

2021年1月13日(水)18時05分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌上級特派員)

こぶしを上げて群衆に決起を促したトランプ JIM BOURG-REUTERS

<トランプは自ら支持者を扇動し、前代未聞の事態に発展させた。そしてアメリカ人は、アメリカの民主主義が機能してきたのは、憲法があるからではなく、幸運と国民の良識があったからだという事実に気付かされた>

(本誌「トランプは終わらない」特集より)

独立以来244年間、アメリカ人は無邪気に信じてきた。この国の政権交代は4年か8年に1度、平和的に行われるのだと。

それが憲法の定めるところであり、1974年のニクソン辞任を受けて急きょ大統領に昇格したジェラルド・フォードが就任宣誓後に語ったとおり、この国の統治は「人ではなく法」に基づいているのだと。
20210119issue_cover200.jpg
だが、それも2021年1月6日午後までのこと。現実の見えなくなった現職大統領ドナルド・トランプにあおられた暴徒が連邦議会議事堂に押し寄せ、乱入したあの瞬間に、私たちは気付かされた。

健全なる憲政を守るも壊すも、実はホワイトハウスの主次第なのだという事実に。

憲法があるからアメリカの民主主義が機能してきたのではない。幸運と国民の良識によって、常にしかるべき人物を大統領の座に就けてきたからだ。ジョージ・ワシントン(大統領の任期は2期までという先例を作った)しかり、(ホワイトハウスの初代住人となった)ジョン・アダムズしかり。

ちなみにアダムズは就任直後に書いた妻への手紙で神にすがり、生まれたばかりのアメリカ合衆国の将来を案じて、「正直で賢い者だけがこの屋根の下で統治しますように」と祈っている。

この言葉は後に、ホワイトハウスの暖炉に刻まれることになった。

トランプ以前で最も腐り切った大統領とされるリチャード・ニクソンでさえ、1960年の大統領選で自分に勝ったジョン・F・ケネディの当選を認証する儀式には(現職副大統領として)粛々と臨んだ。

あのときも勝敗は僅差で、ケネディ陣営に不正があったと騒ぐことも可能だったが、ニクソンは票の再集計を求めることなく、これでこそ「わが国の立憲政治の安定」が保たれると述べたのだった。

2000年のアル・ゴア(当時は現職副大統領)もそうだった。一般投票では勝ったが選挙人の獲得数で敗れ、再集計を求める訴えも最高裁で却下されると、「この国を愛するなら、悔しくとも」ジョージ・W・ブッシュの勝利を受け入れるしかないと、支持者に呼び掛けた。

病的なまでのナルシシスト

見てきたとおり、平和的な政権交代を可能にしてきたのは紙に書かれた文言ではない。その文言を守るべき責務を委ねられた人物が、いずれもしかるべき資質の持ち主だったからだ。

長年にわたり善良な人物が選ばれてきたのは幸運だった。例えば南北戦争の直前にエイブラハム・リンカーンが大統領に就任したこと、1930年代の大恐慌と第2次大戦の際にはフランクリン・ルーズベルトが、1960年代のキューバ危機に際してJ・F・ケネディが大統領だったことは、まさに神の恵みと言うしかない。

19世紀ドイツの宰相ビスマルクの言を借りるなら、「神は愚か者と酔っぱらい、そしてアメリカに特別な慈悲を示してきた」。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中