最新記事

中国共産党

人民日報も予言していた、ジャック・マーの悲しい運命

China State Media Gave Hints of Regime's Displeasure With Jack Ma

2021年1月6日(水)17時05分
ジョン・フェン

世界で最も注目された中国人実業家ジャック・マー(2018年、スイスのダボス会議で) Denis Balibouse-REUTERS

<一代で電子商取引大手アリババを築いた世界的実業家ジャック・マーでさえ、目障りになれば「成功したのは政府のおかげ」と切り捨てる中国共産党の論理>

2カ月前から公の場に姿を見せず、「行方不明」とも噂される中国のIT起業家にして大富豪の馬雲(ジャック・マー)に関連し、2019年に中国共産党機関紙の人民日報に掲載されたある記事が中国で話題になっている。この記事は、マーがなぜ中国政府の不興を買っのたかを的確に表し、その後の運命をも予言したものとみられるからだ。

それは人民日報の論説記事で、マーが電子商取引大手アリババの会長を退いた2019年9月10日の数日後に書かれたもの。中国の新進起業家たちのあいだで憧れの的になっていた56歳のマーに対するロックスターのような扱いをばっさりと切り捨てている。

中国版ツイッターの「微博(ウェイボ)」に再浮上したばかりのこの記事のタイトルは、「『ジャック・マーの時代』など存在しない。あるのはジャック・マーが生きた時代だけだ」。

「アリババが成功した企業であることはまちがいないし、ジャック・マーがアリババに与えた影響についても疑いようはないが、企業の成功をそのリーダーのみの功績とするのは、まったく非現実的だ」と、記事には書かれている。「どんな起業家や企業もその成功は偉大な時代背景に負うところが大きい」

人民日報の記事は、中国有数の大富豪のマーと彼が創業した電子商取引最大手のアリババは、中国政府が用意した経済環境と出合う幸運に恵まれたのであり、その環境のおかげで成功が可能になったのだと示唆する。「適切な土壌と気候条件がなければ、苗は大木に成長できない」

成功は時代のおかげ

記事は次のように結ばれる。「いわゆる『ジャック・マーの時代』など存在しない。あるのはジャック・マーが生きた時代だけだ。その時代が与えるチャンスをつかんだ者だけが、持てる潜在能力を発揮できる。ジャック・マーだろうが、馬化騰(ポニー・マー、テンセント・ホールディングス会長)だろうが、イーロン・マスクだろうが、われわれ凡人だろうが、例外はない」

「盲目的な称賛は、成功をもたらさない。成功を手に入れるには、ある人の成功とその時代の関係を理解することが欠かせない」

中国のネットコメンテーターやローカルニュースサイトは、この論説はマーに関する中国政府の「ご機嫌」と最近の事の成り行きを「予言」したものとして話題だ。

マーは、昨年10月24日に上海で開催された「外灘金融サミット」で、中国の政治指導者のあいだで大きな物議を醸す発言をしたのを最後に、人前に姿を見せていない。

世界でもっとも注目される中国人実業家であるマーはこのサミットで、厳しく規制された中国の金融システムを批判し、「次世代の」中国の若者たちのためにシステムを徹底的に見直すべきだと訴えた。ここで金融規制当局が「イノベーションを妨げている」と述べたマーは、10月中旬を最後に、ツイッターにも微博にも投稿していない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中