スイス、変異種めぐり英国人スキー客に自己隔離要請 混乱したドタバタ劇
また、ひやひやしながら逃げた家族もいる。3人の10代の子ども連れの家族は、12月20日にイギリスを発ち、スイスに着いて間もなくして自己隔離の知らせを受けた。いったんは仕方がないと食料を買い込んで隔離を始めたもののどう考えても無理だと感じ、25日にホテルを発つことにした。警察が取り締まっていたが、ホテルのスタッフに頼んで駅まで連れて行ってもらったという。家族全員でマスクをし、イギリス人だと悟られないようひと言も話さなかった。父親はスキーには目がないとはいえ罰金を請求されたらと思うと怖く、しばらくスイス旅行はしないそうだ(スイスの大衆紙ブリック)。
残って自己隔離したイギリス人も
一方、しっかり10日間自己隔離した人もいる。20代のイギリス人男性は、滞在していたベルビエのホテルから自己隔離の知らせを受け、28日までのホテルでの隔離に従った。男性は、再び都市封鎖を実施したロンドンを離れてひと休みしようと、現在も2度目の都市封鎖をしていないスイスに初めてスキー休暇に来た。
旅程が変わるリスクがあるのは承知していた。イギリスに予定より早く帰国することになるか、もしくはスイスにいることを強いられて、でもスキーはできると考えていたという。国籍を理由に自己隔離させられるとは思ってもいなかったそうだ。父親にはリスクを冒した結果だと言われ、もちろんその通りだと思うし、変異種に関するスイスの対策は当然だとは思いつつ、不公平感はあると話した。滞在延長の費用は自腹となった。
措置が差別的だったと感じた人はほかにもいる。観光キャンペーンでスイス旅行を勧められたというイギリス人グループは、ツェルマットの5つ星ホテルに泊まり、スキーを数日楽しんだときにSMSで知らせを受け、自己隔離となった。せっかくの休暇を台無しにされたうえ、隔離が終わってチェックアウトしたときにまだ部屋にいるようにとレセプションのスタッフに怒鳴られ、侮辱されたと感じたそうだ(前出ブリック)。
イギリス人は、ベルビエを含むヴァレー州のスキーリゾート地にとっては嬉しいお得意様だ。セカンドハウスをもっていたり、数カ月アパートを借りる人もいる。子どもを連れてきて、滞在中インターナショナルスクールに通わせる人もいるという。日刊紙ターゲス・アンツァイガーは、12月の初め、ベルビエには11月からすでにフランス人とイギリス人観光客が目立っていたと報じていた。
観光地としてはやはり客を迎え入れたいが、感染予防措置がいつ強化されるかは予想できない。まだしばらくは、日本のGo To トラベル事業のように、何かあったら混乱を招くのは避けられないだろう。
[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com