最新記事

韓国

韓国・朴槿恵前大統領、懲役20年実刑確定で、李明博元大統領と共に恩赦が焦点に

2021年1月18日(月)14時39分
佐々木和義

選挙を前に保守派の分裂を狙った選挙工作?

李代表の赦免発言に与党内から反発の声が上がっている。前職大統領は、いずれも政権与党の政敵の保守系であり、また文在寅大統領が掲げた賄賂・背任・横領など腐敗犯罪は赦免しないという公約に違反する。

一方、保守系の第一野党・国民の力は、与党代表の赦免発言を前向きに評価する。国民統合に必要な措置であり、分裂を助長する国政運営から脱して、新年から統合に力を入れる意味だと発言通りに受け止めて、歓迎する意向を表した。

一方、かつて文在寅大統領を支援した後、袂を分けた保守系中道の安哲秀(アン・チョルス)国民党代表は、赦免発言は選挙を前に保守派の分裂を狙った選挙工作と憂慮する。

今年4月にソウル市と釜山市の市長補欠選挙が実施され、来年3月には大統領選挙が実施される。安哲秀代表はソウル市長選に出馬する意向を示している。

韓国の世論調査会社、リアルメーターが1月7日に発表した調査結果によると、文在寅政権の不支持率は就任以来最高の61.2%で、ソウル市長選で与党・共に民主党を支持すると回答した人は27.2%にとどまった。

与党は苦戦が予想されるが、保守野党は反文在寅で一致する一方、象徴となるリーダーがいない。李明博元大統領支持派と朴槿恵前大統領支持派がそれぞれ候補を擁立して保守票が割れると、与党が勝利する可能性が浮上する。

「赦免は大統領だけが決定できる事項だ」

与党・共に民主党が1月3日に開催した非公開の最高委員会懇談会で、赦免論が一歩、後退した。前職大統領の赦免は「国民のコンセンサスと当事者の反省が重要」という意見で一致したが、同時赦免ではない方法を模索する案が浮上した。

その一つが、朴前大統領を赦免し、李元大統領は刑の執行を停止する案だ。朴槿恵前大統領の収監期間はまもなく4年になろうとしており、歴代大統領の中で最も長い。全斗煥元大統領と盧泰愚元大統領は収監から2年余りで、特別赦免で釈放された。

一方、李元大統領は刑の確定後に収監されたが、病気を理由にソウル大病院に入院しており、実質的な収監期間は1年強である。李元大統領は赦免ではなく、法務部による刑の執行停止を検討する。

政界が赦免を巡って揺れる中、青瓦台(大統領府)は「赦免は大統領だけが決定できる事項だ」として肯定も否定もしていない。

李洛淵与党代表は国民統合を理由に赦免を持ち出したが、保守を分断する戦略に加えて、朴槿恵前大統領に対する最終判決を前に、国民の意を問う目的があった可能性も否めない。

リアルメーターが行なった調査で、赦免「賛成」は47.7%、「反対」は48.0%と拮抗している。赦免で政局が変わる可能性はあるが、前職大統領はいずれも高齢であり、また2人の元大統領が同時に収監された国はなく、国の品格にかかわるという声もある。文大統領の判断が注目される。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル、ガザ一部占領を計画 軍事作戦を拡大へ

ビジネス

任天堂、「スイッチ2」を6月5日に発売 本体価格4

ビジネス

米ADP民間雇用、3月15.5万人増に加速 不確実

ワールド

脅迫で判事を警察保護下に、ルペン氏有罪裁判 大統領
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中