最新記事

アメリカ

報道機関の「真ん中」の消失、公共インフラの惨状が深めた分断

2020年12月29日(火)17時20分
金成隆一(朝日新聞国際報道部機動特派員)※アステイオン93より転載

「勤務校は教室の雨漏りがひどい。生徒がぬれないよう机の配置を変える。でも小学生の娘の教材を見たら、世界地図にまだソ連があった。小学校の財政も大変だ、と妙に納得した」「年収は3万4千ドル。家族を養えないので土日に計16時間、小売店で働く」(高校の英語教諭ロドニー・ウェバリング、37歳)

「昇給は10年なし。土曜日は食料品店の試食コーナーで働いている。授業で使うコピー用紙、鉛筆、クレヨンなどは自腹で購入。家賃を節約するため母と同居中。『家賃500ドル以内の部屋を』と神に祈り続けたら、450ドルの部屋が見つかった。定職に就いているのだし、わがままじゃないでしょう?」(小学校教員ティファニー・クリステン、52歳)

デモには生徒の姿も。一般的にアメリカでは教科書は学校の備品だ。それが古すぎると、高校2年のノア・スイート(17)は怒っていた。「私の教科書によると、ビル・クリントンがアメリカ大統領で、(2001年の)同時多発テロは起きていない。冥王星は惑星のままです」。生まれる前の1990年代の教科書を使っている。別の生徒は、学校に人数分の教科書がないため、試験前はスマホで必要なページを撮影し、それを指先で拡大しながら勉強していると惨状を訴えた。

デモが起きていた州は、教員給与が全米平均を下回っていた。背景には、2008年の金融危機から立ち直れていないことがある。公教育は大半が州政府と地元自治体の予算によっているが、金融危機で税収が落ち込み、学校予算が犠牲になった。その後、経済は回復したが、生徒一人当たり州予算(2015年時点)は、29州で08年水準に戻っていない。アリゾナ州の落ち込みは36%減と最大で、オクラホマ州も15%減。両州は所得税、法人税の減税を進め、財政をさらに悪化させていた。

現地報道によると、オクラホマ州では辞める教員が後を絶たず、緊急の教員免許発行数が急増。約2割の学校は週4日制に移行した。アリゾナ州ではフィリピンからの「出稼ぎ教員」が教えているという。

一方、ニューヨーク郊外の裕福な自治体の公立校は私学よりも施設が充実している。アメリカでは固定資産税が教育予算を支えるため、地価の差がそのまま大きな格差となって教育現場に出る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米11月ISM非製造業総合指数52.1に低下、価格

ワールド

米ユナイテッドヘルスケアのCEO、マンハッタンで銃

ビジネス

米11月ADP民間雇用、14.6万人増 予想わずか

ワールド

仏大統領、内閣不信任可決なら速やかに新首相を任命へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求可決、6時間余で事態収束へ
  • 4
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 5
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 6
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 7
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞…
  • 8
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない…
  • 9
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 10
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 4
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中