報道機関の「真ん中」の消失、公共インフラの惨状が深めた分断
「勤務校は教室の雨漏りがひどい。生徒がぬれないよう机の配置を変える。でも小学生の娘の教材を見たら、世界地図にまだソ連があった。小学校の財政も大変だ、と妙に納得した」「年収は3万4千ドル。家族を養えないので土日に計16時間、小売店で働く」(高校の英語教諭ロドニー・ウェバリング、37歳)
「昇給は10年なし。土曜日は食料品店の試食コーナーで働いている。授業で使うコピー用紙、鉛筆、クレヨンなどは自腹で購入。家賃を節約するため母と同居中。『家賃500ドル以内の部屋を』と神に祈り続けたら、450ドルの部屋が見つかった。定職に就いているのだし、わがままじゃないでしょう?」(小学校教員ティファニー・クリステン、52歳)
デモには生徒の姿も。一般的にアメリカでは教科書は学校の備品だ。それが古すぎると、高校2年のノア・スイート(17)は怒っていた。「私の教科書によると、ビル・クリントンがアメリカ大統領で、(2001年の)同時多発テロは起きていない。冥王星は惑星のままです」。生まれる前の1990年代の教科書を使っている。別の生徒は、学校に人数分の教科書がないため、試験前はスマホで必要なページを撮影し、それを指先で拡大しながら勉強していると惨状を訴えた。
デモが起きていた州は、教員給与が全米平均を下回っていた。背景には、2008年の金融危機から立ち直れていないことがある。公教育は大半が州政府と地元自治体の予算によっているが、金融危機で税収が落ち込み、学校予算が犠牲になった。その後、経済は回復したが、生徒一人当たり州予算(2015年時点)は、29州で08年水準に戻っていない。アリゾナ州の落ち込みは36%減と最大で、オクラホマ州も15%減。両州は所得税、法人税の減税を進め、財政をさらに悪化させていた。
現地報道によると、オクラホマ州では辞める教員が後を絶たず、緊急の教員免許発行数が急増。約2割の学校は週4日制に移行した。アリゾナ州ではフィリピンからの「出稼ぎ教員」が教えているという。
一方、ニューヨーク郊外の裕福な自治体の公立校は私学よりも施設が充実している。アメリカでは固定資産税が教育予算を支えるため、地価の差がそのまま大きな格差となって教育現場に出る。