労組に入らず、教会に通わない──真ん中が抜け落ちたアメリカ
組合活動は思い出に
あまり口の良くない労働者たちも、現役時代の労働組合については悪く言わない。闘争的なストライキを懐かしむ人もいる。製造業や製鉄業が栄えた中西部では組合活動が盛んで、労働条件に満足できないと、白人も黒人も、若者も高齢者も一丸となって経営陣と対峙していた。
「時給3ドル25セントの昇給を求めた1995年のストライキでは、外部から来る代替の労働者に『スト破り(scabs)』と罵声を浴びせながら石を投げつけた。ライフル銃で奴らの車のタイヤや冷却器を狙う者もいた。ピッツバーグの組合本部できちんと各製鉄所の利潤を調べ、『昇給できるはずだ』と(数字で)要求を突きつけた。当時の組合は労働者を守った。だから(組合が支持する)民主党をずっと支持してきた」(製鉄所で働いた白人の男性)という具合だ。
そんな組合の組織率は低下している。労働統計局によれば、2019年の賃金労働者の組織率はわずか10.3%で、比較可能な最古の統計の1983年の20.1%から半減した。産業構造がサービス業にシフトしたことに加え、労組加入を従業員に強制するのを禁じる「労働権」を定める州が増え、労組が組合費を集めることが困難になったことなどが背景にある。労組が組織率を回復する見通しはなさそうだ。
労働者にとって組合活動は暮らしの一部だった。組合員としては民主党支持を打ち出すものの、銃所持の権利や妊娠中絶をめぐっては保守的な組合員も多く、雇用や賃金といった日々の議題だけでなく、政治を巡っても様々な議論が起きたという。やはり他者と遭遇する場になっていたことがうかがわれる。
※第2回:報道機関の「真ん中」の消失、公共インフラの惨状が深めた分断
※第3回:今のアメリカは「真ん中」が抜け落ちた社会の行きつく先に続く。
金成隆一(Ryuichi Kanari)
1976年生まれ。慶應義塾大学法学部卒、2000年朝日新聞社入社。大阪社会部、ハーバード大学日米関係プログラム研究員、ニューヨーク特派員、東京経済部を経て現職。第21回坂田記念ジャーナリズム賞、2018年度ボーン上田記念賞を受賞。著書に『ルポ トランプ王国』『ルポ トランプ王国2』(いずれも岩波新書、第36回大平正芳記念賞特別賞)など
『アステイオン93』
特集「新しい『アメリカの世紀』?」
公益財団法人サントリー文化財団
アステイオン編集委員会 編
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