最新記事

アメリカ

労組に入らず、教会に通わない──真ん中が抜け落ちたアメリカ

2020年12月28日(月)16時15分
金成隆一(朝日新聞国際報道部機動特派員)※アステイオン93より転載

他者の不在

私が継続取材しているトランプ支持者には、労働者階級の白人が多い。すでに引退している人も少なくない。気になってきたのは、彼らが異なる意見に接する機会が少ないことだ。外でビールやコーヒーを楽しむときも、似たような世代、職業の白人が集まる。自宅に戻っても、トランプに好意的なテレビ番組ばかり見ている。車の運転時は、過激な主張を流す、さらに偏ったトークラジオ番組を聴いている。

不思議なことに、同行した飲み屋でもトランプ支持者が8〜9割だ。選挙結果によれば、民主党支持層も4割超いるはずなのに、である。出張中の私は、トランプ支持者の「バブル(泡)」の中にいるのだ。

彼らの暮らしは、かつてはどうだったのだろう、と考えてみる。日中は製鉄所や自動車工場で働き、労働組合の会合に参加し、週末は教会に通っていた。選挙前になると、政党支部にも顔を出した。これらの場所では、自分と異なる世代、職業、政治への考え方を持つ人々と出会う機会があったはずだ。

職場、組合、教会、政党、地域活動。こうした集まりは、個人と国家の間にある「中間団体」と呼ばれている。伝統や慣習から解放される中で、個人がバラバラに孤立せずに社会を形成する上で、中間集団の機能は注目されてきた。1831年に渡米観察したフランスの思想家トクヴィルが「感嘆」したのも、アメリカ人が様々な目的で、大なり小なり、自発的に団体を形成することだった。地位が平等化される民主制で、孤立しそうな個人をつなぐ役割に着目したのだ。(トクヴィル『アメリカの民主政治(下)』186―208頁、井伊玄太郎訳、講談社、1987年)

「個人と国家の間にあるアソシエーションこそが国家権力の肥大化を抑止し、個人の自由を守る」「私的領域と公的領域、あるいは個人と共同体。そういう相反する方向性が緊張関係をはらみながら、何故かアメリカ人は両立させてきた。実はそこに中間集団の存在があった」(佐藤慶幸、「ボランタリー・セクターと社会システムの変革」、『公共哲学7 中間集団が開く公共性』所収、東京大学出版会、2002年)との指摘も参考になる。

本稿では、こうした中間団体について、異質な他者と遭遇し、自らの考え方を修正する機会になる場という役割を強調したい。今のアメリカでは、このような「他者との遭遇」の欠如が重要な意味を持つのではないかと感じるからだ。トランプ支持の白人高齢者を取材していて感じるのは「他者の不在」である。(*「他者の不在」は、リベラル側にも起きていると考えているが、私が取材できているのがトランプ支持者なので、こちらを取り上げる)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国首相「関税の影響ますます明白に」、世界経済に影

ワールド

米とグリーンランド、「相互の尊重」を約束 米大使が

ビジネス

トランプ米政権、航空会社と空港に健康的な食事と運動

ワールド

トルコがロシアからのガス輸送を保証 =ハンガリー首
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 10
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中