最新記事

アメリカ

労組に入らず、教会に通わない──真ん中が抜け落ちたアメリカ

2020年12月28日(月)16時15分
金成隆一(朝日新聞国際報道部機動特派員)※アステイオン93より転載

他者と出会える場としての教会

中西部の1950年代の暮らしぶりを知るのに参考になる本にロバート・D・パットナムの『われらの子ども』(柴内康文訳、創元社、2017年)がある。彼の故郷オハイオ州ポートクリントンは人口6500人。当時、「肉体労働者の子どもも専門職の子どもも似たような家から集まって、意識しない形で学校や地域、ボーイスカウトや教会のグループで混じり合っていた」という。具体例として、労働者階級の子、ドンが登場する。街の中でも貧しい地域で暮らし、家には車もテレビもなかった。ドンの両親には大学の進学方法など「見当もつかなかった」が、教会との結びつきが支えになって大学に進んだ。牧師が出願手続きの方法や学資援助の申請などを教えてくれたのだ。

教会が、単に信仰の場ではなく、自分や家族とは異なる知見を持った「他者」と知り合える場であることが伝わるエピソードだ。本書には、地域社会の大人が子どもたちを「われらの子ども」として扱い、階層間の移動を後押ししていた様子などが描かれている。

これらは中西部の教会に特有の機能ではないだろう。私は高校時代に留学生としてテキサス州で暮らした際、ホストファミリーに連れられて週2日を南部バプティスト教会で過ごした。ホストファザーは朝に新聞配達を、日中はゴルフのインストラクターで生計を立てていた。労働者階級の白人家庭だった。教会に行けば、様々な職業の大人と接する機会があった。警察官、下水施設の管理人、医者、弁護士、高校教諭。私にも教会は高校と同様に、私的空間(家庭)を越えて他者と定期的に会える場だった。

私が取材するトランプ支持者も、聞かれれば「キリスト教徒」と答える。しかし、教会に通っている様子はない。3年ほど週末を中心にラストベルトに通ったが、教会に行ったのは、「孫の洗礼を見に来ないか」とその家族に誘われた1回だけ。支持者とは何度も食事を共にしたが、食事前のお祈りに遭遇したこともない。酒も浴びるほどに飲む。(南部州では取材先と食事するたびに「お祈りしてもよいですか?」と尋ねられ、酒も飲まなかった)

キリスト教徒は減っている。ピュー・リサーチ・センターによると、自分をキリスト教徒と認識している人の割合は2009年の77%から2019年(2018年からの継続調査)の65%に減った。自らを「無神論者」「不可知論者」などと回答した人の割合は同期間に17%から26%に増えた。定期的に教会に通う人の割合も落ちている。「毎月少なくとも1〜2回は礼拝」と答えた人の割合は、2009年は52%で、「時々しか参加しない」と「全く参加しない」の計47%より多かった。ところが2019年には、前者が45%に減り、後者は計54%に増え、逆転した。

世代間の違いも大きい。1928〜45年に生まれた世代では、キリスト教徒と自己認識している人の割合が84%だが、若くなるごとに76%(1946〜64年)、67%(65〜80年)と低下し、1981〜96年に生まれた若者では49%にとどまる。アメリカは他の先進国に比べれば、いまも宗教的な国だが、最近のトレンドとしては、世俗化が進んでいる。

他者に遭遇できる場としての教会の役割も落ちているのではないだろうか(図1)。

asteion20201228kanari-1-chartB.png

「アステイオン」93号94ページより

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ブラジル大統領選、ボルソナロ氏が長男出馬を支持 病

ワールド

ウクライナ大統領、和平巡り米特使らと協議 「新たな

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中