最新記事

ワクチン

コロナ対策を阻む「ワクチン忌避派」の壁──不信感の源は?

THE VACCINE RESISTANCE

2020年12月24日(木)16時30分
フレッド・グタール(科学ジャーナリスト)

感染が始まった当初から米国民のワクチンへの信頼は低かった JOHN RENSTEN/GETTY IMAGES

<安全性への疑問、反政府的態度、陰謀論──治験段階で90%以上の有効率を示し、開発成功に沸く米国だが、反ワクチンの動きで感染拡大が止まらない恐れが>

米大統領ドナルド・トランプの新型コロナウイルス対策(対策と呼べるものがあったかどうかも疑わしいが)は失敗続きだったが、超特急のワクチン開発だけは(功績の大半は民間企業にあるが)成功したと言えそうだ。まだ効果について結論を出すには早過ぎるが、少なくとも治験段階では製薬大手ファイザー製ワクチンが95%、政府から10億ドルの支援を受けたモデルナ製が94%で発症予防に有効だったとされる。

大方の関係者はこの数字に驚き、胸をなで下ろしもした。こんなに高い数字は想定外だったからだ。通常の季節性インフルエンザワクチンでさえ、有効率はよくて60%程度。そのレベルをクリアできれば上等だと考えられていた。監督機関のFDA(食品医薬品局)でさえ、有効率50%以上ならゴーサインを出すつもりでいた。深刻な副反応さえ出なければ、いよいよこれで感染拡大を抑えられるかもしれない。

もちろん、筋書きどおりに事が運ぶ保証はない。既に緊急使用承認を得たファイザーは何百万人分ものワクチンを出荷し始めているが、公衆衛生の現場には大きな壁が待ち受けている。ワクチンの安全性に疑問を抱く人たちの存在だ。

今度のワクチンは、人工的な遺伝物質を含むという点で前例のないもの。しかも、通常は最低でも1年半とされる開発期間が大幅に短縮されている。安全性を疑い、接種を拒む人は少なからずいるだろう。

陰謀論者に日和見主義者も

先の大統領選で明らかなように、今のアメリカは救い難く分断されている。感染症への態度もそうで、マスクの効果と国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長を信じる人もいれば、個人の自由とトランプへの支持を絶対視する人もいる。今回のワクチンについても、支持政党によって評価が分かれる。大ざっぱに言えば、ワクチン接種に前向きなのは民主党支持者だ。

ただし、ワクチンそのものに懐疑的な「反ワクチン派」は民主党にも共和党にもいる。個人の自由を最重視する人たちは、ワクチンの安全性よりも政府による接種の強制に反発する。保守的なキリスト教徒の一部は新型コロナの流行を終末論的に解釈し、ワクチン接種は神に背くと考える。実際の効果や副反応を見極めたいと考える人もいる。

大統領選直前にギャラップが実施した世論調査によれば、回答者の約42%は新型コロナ用ワクチンの接種を望んでいなかった。理由を聞くと「開発を急ぎ過ぎた感じで不安」が37%、「安全性が確認されるまで待つ」が26%、「一般論としてワクチンは信用しない」が12%、「有効性が確認されるまで待つ」が10%、「その他」が15%だった。

当然のことながら、反ワクチン派の主張はネット上でも拡散している。フェイスブックなどのSNSには合計で5800万の反ワクチン派アカウントがあるとされ、その資金力は全体で10億ドル前後だという。今度のワクチンに遺伝子工学の技術が用いられていることを理由に「政府は国民を改造人間にするつもりだ」と非難する書き込みもあった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中