次期大統領バイデンの公約実現に立ちはだかる米共和党重鎮マコネルの壁

バイデン次期米大統領は、新型コロナウイルスで打撃を受けた経済を再生し、老朽化した国内インフラ修復を図り、数百万の失業者を仕事に戻すと約束している。写真はマコネル上院院内総務。米議会で1日代表撮影(2020年 ロイター)
バイデン次期米大統領は、新型コロナウイルスで打撃を受けた経済を再生し、老朽化した国内インフラ修復を図り、数百万の失業者を仕事に戻すと約束している。しかし来年1月に予定されるジョージア州の上院選決選投票で民主党が勝利しない限りは、これらの政策実現に向けて1人の人物が立ちはだかることになる。それはもちろん、上院のマコネル共和党院内総務(78、ケンタッキー州選出)だ。
共和党が上院で多数派を維持すれば、2015年以降ずっとそうだったように、上院でどの法案を審議するかはマコネル氏の胸先三寸で決まる。民主党中道派系コンサルティング会社サードウエーの共同創設者マット・ベネット氏は「われわれには『マコネル氏が何を望んでいるか』は分かりようがない」と語った上で、もしマコネル氏がバイデン氏の政策運営を妨害したいだけであれば、米国にとって厄介な4年間がやってくるとの見方を示した。
バイデン氏が選挙中に強調してきた、環境にやさしいインフラへの公共投資を通じた雇用創出といった「大きな政府」案件に対して、マコネル氏はずっとノーを突きつけている。多数派の院内総務であれば、そうした計画に予算を拠出するために必要な法案を採決に持ち込むことさえ阻止できる。またジョージア州の2議席を民主党が確保した場合でも、共和党の支持が成立に不可欠な法案で、マコネル氏は共和党を結束させてつぶす力が引き続きある。
バイデン氏もマコネル氏が「障害」となった場合の影響力の大きさを意識しているからこそ今月2日、米紙ニューヨーク・タイムズの論説委員に対して、次期政権がどれだけ公約を達成できるかは主としてマコネル氏と議会共和党の行動次第になると認めた。共和党とのパイプ役になると期待してバイデン氏が大統領上級顧問に起用すると発表したのは、セドリック・リッチモンド下院議員だ。
マコネル氏は9日、議会は引き続き新型コロナの追加経済対策合意を目指していると強調したものの、一部民主党議員はマコネル氏が合意の大きな妨げだと話す。
同氏が米経済に行使している影響力は憂うべきものだとの声も聞かれる。フランスの著名経済学者トマ・ピケティ氏はロイター宛て電子メールで「マコネル氏の甚大な力は米国の政治機構がいかに機能不全に陥っているかを物語る。実質的に少数派の方が多数派よりも権力がある」と指摘した。
さらにピケティ氏は「欧州連合(EU)の機構もある面でこれと同じ理由から機能しなくなっている。つまりルクセンブルクであれ、ハンガリーであれ人口が少ない国に多大な拒否権が付与されているのだ」とも指摘した。
協力期待できるか
バージニア大学政治センターのラリー・サバト教授は「問題はマコネル氏が、バイデン氏の提案において何が自分の利益になると考えているのかだ」と分析する。
サバト氏の見立てでは、マコネル氏はもう1回は経済対策を打ち出すことには賛成しそうだ。「彼はあと1回は法案を通過させようと思っている。そうすれば彼はこれを振りかざし続け、自分は譲歩をしたと言うことができる」という。
ただマコネル氏がもっとそれ以上に、バイデン氏が掲げる他の政策を支持する公算は乏しい。サバト氏は「常に内容の骨抜きを目指し、廃案にできる場合はそうする。これを彼は過去に何度も行動で証明してきた」と話した。2016年の前回大統領選前には、当時のオバマ大統領が指名した最高裁判事の承認手続き入りを阻止している。
一方で時限的な税制優遇措置の恒久化、ないしは農村地域のインフラ改善など共和党が優先課題としている分野では、多少の交渉余地があるかもしれないと専門家はみる。