バイデン勝利の陰の功労者は黒人女性政治家エイブラムス
GEORGIA ON HER MIND
もともと共和党の強い南部で、しかも人口の多いジョージア州で民主党が勝てる可能性を示したこと。これでエイブラムスの株は上がった。現に今年は最後まで副大統領候補の1人として名が挙がっていた。バイデン政権で要職に起用される可能性もあるし、彼女自身が2年後に再び知事選に出馬する可能性もある。どう転ぶかは分からないが、当面、彼女の動きから目が離せない。
実は彼女、ジョージアの出身ではない。1973年にウィスコンシン州マディソンで生まれ、育ったのはミシシッピ州。優秀な成績でスペルマン大学を卒業したが、その頃に失恋し、悔しくてこの先40年の人生プランを表計算ソフトに書き込んだ。まず24歳までにロマンス小説を書いて売れっ子作家になり、30歳では会社を経営して大金持ち、そして35歳でアトランタ市長......。
それから20年余り、エイブラムスは(ほぼ)自分を偽らずに生きてきた。テキサス大学オースティン校に進んで行政学の、エール大学に転じては法学の修士号を取得した。
エール大学の3年目にはセレナ・モンゴメリーというペンネームでロマンス小説を発表。2009年までに同じ筆名で8作品を書き上げた。2018年には自分の政治家人生をまとめた本がベストセラーになった。来年5月には政治サスペンス小説『正義が寝てる間に』を出す予定だ。
2006年にはジョージア州下院議員に当選し、5期10年を務めた。2018年には州知事選の民主党予備選を勝ち抜き、主要政党では初の黒人女性候補となった。そして善戦し、あと一歩でアメリカ初の黒人女性知事になれるところまで行った。
共和党候補のケンプは現役の州務長官だったから、ジョージア州法の規定を巧みに利用して自分に有利な環境を整えていた。当時の州法では、過去3年間に投票歴のない住民を有権者名簿から除外することが可能だった。地元紙の報道によれば、ケンプは2017年7月、職員に命じて有権者名簿を精査させ、30万人以上の有権者登録を取り消している。
知事選後、エイブラムスは「フェア・ファイト2020」なる団体を立ち上げ、有権者登録の回復を求めて州政府を提訴した。2012年以降の投票歴がなく、あるいは州からの問い合わせに返信しなかったせいで除外された州民12万人以上の権利回復を求める訴訟だ。
そして昨年、彼女は2020年の大統領選で民主党がジョージア州を奪還するための作戦プランを党本部に提出した。その冒頭で、彼女は書いた。「(次の選挙で)ジョージア州に全力を注がなければ、戦略的な間違いを犯すことになる」と。