最新記事

アメリカ政治

バイデン勝利の陰の功労者は黒人女性政治家エイブラムス

GEORGIA ON HER MIND

2020年12月11日(金)16時20分
フレッド・グタール

投票妨害と戦いジョージア州で民主党の勝利をもぎ取ったエイブラムス EMILY ASSIRAN/GETTY IMAGES FOR BUSTLE

<激戦州ジョージアの勝利を民主党にもたらしたのは、ステイシー・エイブラムスの地道な投票促進運動だった>

今年のアメリカ大統領選では誰もが、勝敗を決するのは東部ペンシルベニア州だと踏んでいた。あそこの選挙人(20人)を獲得した側が勝者になると。そして予想にたがわず、同州を制した民主党ジョー・バイデンが次期大統領の座をつかんだ。

だが結局のところ、2020年選挙で最重要だったのは、ほとんどの民主党員が捨てていたジョージア州だった、という評価になるかもしれない。もしもそうなったらバイデン政権与党の民主党は、一人の献身的な黒人女性に感謝すべきだろう。

彼女の名はステイシー・エイブラムス。2年前の同州知事選で共和党候補に挑んだが、及ばなかった。それでも彼女はこの2年間、めげずに自分と同じ黒人の声を届けるためにフル回転し、わずか1万2670票の僅差とはいえ、大統領選におけるジョージア州での勝利を民主党にもたらした。1992年のビル・クリントン以来の快挙だった。

それだけではない。上院選ではまだ2議席が決まっておらず、ジョージア州で1月5日に行われる決選投票で結果が出る。そこでも彼女が裏方として重要な役割を果たしている。

「努力して、力を合わせれば何ができるか。私たちはその答えを知った」と、エイブラムスは大統領選の直後に語っている。「ジョージアでも、やれば勝てる。もう一勝負、みんなでやりましょう」

そう言えるのは、エイブラムスがこの州における重要な変化を熟知しているからだ。ジョージア州はずっと共和党の牙城とされてきたが、実は水面下で民主党へのシフトが起きていた。この州では、2012年の大統領選でバラク・オバマが8ポイント差で敗れている。しかし2016年のヒラリー・クリントンは5ポイント差まで縮めていた。

そして2年前の知事選ではエイブラムス自身が、州務長官で共和党のブライアン・ケンプ相手に1ポイント強の差まで詰めた。だが及ばなかった。ケンプが州務長官の地位を利用して前年に、棄権歴の目立つ民主党支持層らの有権者登録を取り消したせいだと、彼女は考えている。

それで彼女は今回、改めて有権者登録を増やす活動に力を注いだ。そのかいあって、11月3日の投票日までにジョージアでは登録有権者が80万人も増えたと伝えられる。しかも、増えた登録有権者の多くはバイデンに票を投じたとみられている。

この勢いが続けば、1月の上院選決選投票でも共和党現職のケリー・ロフラーを民主党新人で黒人のラファエル・ワーノックが、同じく共和党現職のデービッド・パーデューを民主党新人のジョン・オソフが倒せるかもしれない。

投票の権利を守る運動へ

もしも運よく民主党が2勝できれば、上院は50対50で与野党同数となり、次期副大統領カマラ・ハリスの最後の1票で民主党は上院を支配できる。あいにくその可能性は低い。だが、ここまでの接戦に持ち込めたのはエイブラムスの努力と、その政治的直感のおかげと言える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中