最新記事

米大統領

トランプは退任前の駆け込み恩赦で自分と家族を救えるか

2020年12月8日(火)19時00分
フランク・ボーマン(ミズーリ大学法学大学院教授)

一族の命運は?(左から)エリック、イバンカ、トランプ、トランプJr. SHANNON STAPLETON-REUTERS

<全ての連邦犯罪に対する包括的恩赦が与えられたニクソン並みに広範な恩赦を自分と家族、近親者に与えようとしているが>

ニューヨーク・タイムズ紙によれば、トランプ米大統領は、長男のトランプJr.、次男のエリック、長女のイバンカ、その夫のジャレッド・クシュナー、顧問弁護士のルディ・ジュリアーニへの幅広い恩赦について協議しているという。

トランプが退任前にこうした恩赦を与えた場合、トランプ政権時代の犯罪に関する将来の刑事捜査にどのような影響が及ぶのか。そもそも、このような恩赦は可能なのか。

恩赦は、まだ捜査や起訴がされていない犯罪に対しても認めることができる(ただし、恩赦前に行われた犯罪でなくてはならない)。フォード元大統領とカーター元大統領がベトナム戦争時の徴兵忌避者たちに恩赦を与えた際も、まだ起訴されていない人たちが対象に含まれていた。

一般に、恩赦は対象の犯罪を特定して与えられる。歴史上、全ての連邦犯罪に対する包括的恩赦が与えられた唯一の例は、フォードが前任者のリチャード・ニクソンに対して与えた恩赦だ。このときは、ニクソンが大統領に就任して以降、ウォーターゲート事件で辞任するまでの間に犯した全ての連邦法上の犯罪が恩赦の対象とされた。

こうした包括的恩赦が憲法違反かどうかは、結論が出ていない。この措置の合憲性が連邦最高裁で争われたことがないからだ。

おそらく、トランプは自分自身に恩赦を与えようとするだろう。しかも、恩赦の範囲は、ニクソンのケースのように広範なものになりそうだ。

大統領の自己恩赦を憲法違反と見なす専門家は多いが、連邦最高裁がどのような判断を下すかは分からない。もっと重要なのは、自己恩赦の合憲性が裁判で争われている間、かなりの時間を稼げるということだ。トランプはこれまでも、法的な問題に直面した場合には時間を稼ぐ戦術を繰り返してきた。

自己恩赦を行うことには、普通の政治家なら躊躇しても不思議でない。自らが犯罪に手を染めたことを暗に認めたと受け取られかねないからだ。大統領選再出馬を目指すのであれば、自己恩赦には一層慎重になりそうに思える。しかし、トランプがそれを理由に思いとどまるかは明らかでない。

ただし、トランプの主たる関心事は、捜査や裁判でビジネスや政治活動にダメージを及ぼすような事実が明るみに出るのを防ぐことだ。その点、どれほど幅広い自己恩赦を行っても、自分自身と家族、そして重要な秘密の全てを捜査から守ることはできない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

25年度予算が成立、歳出総額115兆円 衆院で再議

ビジネス

日銀、10―25年の国債買い入れ初減額 「買入比率

ビジネス

ハチソンの港湾売却計画、親中紙が再考促す全面記事 

ワールド

ロシア、2夜連続でハリコフ攻撃 1週間で無人機10
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中