最新記事

韓国社会

BLM支持のBTSを生んだ韓国で、反差別運動が盛り上がらない訳

RACISM, KOREAN STYLE

2020年12月17日(木)19時00分
カトリン・パク

一方、社会に大きな亀裂を生むような差別問題こそなくても、韓国の国内にも差別は存在している。

韓国で働く約150万人の外国人労働者たちは、過酷な環境での生活と就労を強いられる半面、社会の一員になる機会は与えられない。不法滞在者は、警察による強制捜査で命を失うことすらある。2018年に内戦下の中東イエメンから500人以上の亡命希望者が韓国にやって来たときは、約70万の人々が政府に強制送還を求める請願を行った。

韓国政府はこの数十年、韓国人男性と外国人女性の結婚を奨励してきた。主に農村の男性が結婚相手を見つけて、子供をつくれるようにするためだ。ある調査によれば、そうした外国人花嫁(主に東南アジア出身)の半分近くが夫による暴力を訴えているという。

もちろん、人種差別は韓国だけの現象ではない。東アジアのほかの国々にも差別の問題がある。中国政府は、新疆ウイグル自治区などで少数民族を大量に強制収容所に送ったり、強制的に不妊手術を受けさせたりしている。

日本でも、在留資格を持っていない外国人が入管施設に長期間・無期限に収容されている。昨年は、抗議のハンガーストライキを行っていた収容者の男性1人が死亡した。

差別は、コロナ禍でも起きている。今年2月に新型コロナウイルスの感染拡大がニュースになり始めると、韓国、日本、香港、ベトナムではすぐさま、飲食店が中国人客を締め出そうとした。

ただし、韓国社会にも変化の兆しはある。BTSなどのKポップアーティストが反差別の姿勢を鮮明にしていることはその1つだ。

若い世代には変化の兆しも

韓国人の若いアーティストたちがそのような行動を取るようになった背景には、アメリカの大勢のファンの存在がある。昨年、アメリカの音楽専門チャンネルMTVがKポップアーティストを主要な賞にノミネートしなかったとき、ファンはソーシャルメディアでMTVの人種差別を批判し、授賞式をボイコットした。そうしたファンの多くが黒人だった。

それに、BTSのプロデューサーも述べているように、グループの音楽的アイデンティティーの土台には黒人音楽がある。Kポップの源流は、ヒップホップとR&Bなのだ。

しかし、社会に変化を起こすためには、まず教育を変える必要がある。韓国の教育は、子供たちの間に不健全なレベルのナショナリズムを育てている。それが東アジアの国々に共通する差別意識と、過去の出来事に基づく反感、そして過度に同質性の高い社会ならではの文化的無知と相まって助長されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中