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韓国社会

BLM支持のBTSを生んだ韓国で、反差別運動が盛り上がらない訳

RACISM, KOREAN STYLE

2020年12月17日(木)19時00分
カトリン・パク

6月6日にソウルで行われたBLM運動支持のデモ。連帯の意思を示す若者もいるが…… SIMON SHIN-SOPA IMAGES-LIGHTROCKET/GETTY IMAGES

<世界的なBLM運動に韓国人が連帯しないのはなぜか──その理由は、長い間直視できていない自国の差別の現実にある>

この夏、世界中の人々が街頭でデモに加わり、アメリカのBLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)運動に対する支持を表明したとき、私は1人の韓国人として、韓国でも連帯のデモが行われるものと思っていた。

なにしろ、韓国の民衆が大規模デモにより当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領を退陣させたのは、わずか数年前のことだ。それに韓国は、Kポップの人気ボーイズグループ、BTS(防弾少年団)を生んだ国でもある。BTSと所属事務所はBLM運動に100万ドルを寄付し、ファンも直ちに同額のカンパを行ったことで知られている。

しかも韓国には、民主化運動のデモ隊と機動隊が激しい衝突を繰り返し、市民に対する警察の暴力が横行していた1970~80年代の痛ましい記憶も残っている。1987年には、警察の拷問により学生運動家の若者が命を奪われたこともあった。

ところが、BLM運動に対して、韓国人はおおむね傍観者であり続けた。韓国での反応が盛り上がりを欠いた主な理由は、アメリカの人種差別の実態への知識不足と、自国の人種差別を直視しない姿勢にある。

韓国社会ではこれまで、露骨な人種差別が重大な社会問題になることはなかった。学校教育で教えられる反日感情が時折燃え上がることはあるが、国内に際立った人種対立は見当たらない。

アメリカで黒人男性が白人警官に命を奪われたと聞けば、たいていの韓国人は憤慨するが、戸惑いも感じている。「アメリカで警官が市民を暴行」というニュースをうまく理解できないのである。韓国人の感覚では、警察の暴力は独裁国家で起きることであり、民主主義国家では起こり得ないことだからだ。

もう1つ韓国人がなかなか納得できないのは、BLM運動のデモ(ほとんどは平和的なものだ)で、ごく一部とはいえ略奪や暴力行為に走った人たちがいたことだ。多くの韓国人はデモで略奪が行われたことを知り、1992年のロス暴動を思い出した。この暴動では、韓国系の商店が黒人の暴徒に襲撃されて甚大な被害を被った。そのときの韓国メディアの偏った報道もあって、アメリカの黒人に偏見を持つ韓国人も少なくない。

外国人に対する苛烈な差別

韓国人の中には、バラク・オバマ前大統領の就任によりアメリカが既に人種差別を克服したと思い、いまだに社会の仕組みに人種差別が深く根を張っていることが目に入っていない人も多い。そのため、黒人たちが警察署以外の場所を襲撃する理由が理解できず、黒人への偏見を深めてしまうケースも見られる。

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