中国大手IT企業の独禁法違反処分はTPP11参加へのアピール
たとえば通信販売関連のA社、B社、C社......があったとしよう。
いずれも最初の内はサービスが良くて廉価。「その代りにあなたの趣味を含めた個人情報を下さいね」という感じで、「物を買うのに、なんでそんな情報まで入力しないと買えないの?」というほど、こと細かに情報提供しないと買えなかった。それでも廉価なので、情報を提供する。それは互いのメリットを享受する交換条件のようなものだったため、A社もB社もC社......も、競って廉価に販売してくれた。
ところが、仮にこれらA、B、C......が合併吸収をして、極端な場合、1社だけになったとすると、もう競争相手はいなくなるので、いきなり販売価格も送料も高く付けてくる。その負担は消費者に行く。
その傾向が中国社会内でドンドン強くなってきたので、中国政府としてはストップを掛けざるを得ないところに来たのだ。
特に10月に開催された中国共産党第19回党大会・五中全会では、「共同富裕」というのが、一つの政治目標になっている。
それは鄧小平が言い出した「先富論」を半分は否定するものと言ってもいいだろう。「先富論」は本来「先に富める者から富め。先に富んだ者は、まだ貧しい者を引っ張って共に豊かになっていこう」という性格のものだったが、現実は「先に富める者が富み、貧乏な者は取り残してしまえ」という、激しい「貧富の格差」を生む結果を招いてしまった。
そこで習近平政権は「建党百周年記念までに貧困層をゼロにする」という「貧困撲滅運動」を旗印に、その実現に向かって躍起になっている。建党百周年記念は来年2021年7月1日にやってくる。もう、待ったなしなのである。
したがって五中全会のテーマの一つは「共同富裕」であり、そのための独禁法のネット業界への適用なのである。
「外商投資法も独禁法もVIEスキームをカバーする」ことへのシグナル
このたびの大手ネット企業への独禁法違反処罰は、実はアメリカ市場での上場などにも関係してくるVIE(Variable Interest Entities、変動持分事業体)スキームを使った企業への、ある種のシグナルと受け止めることもできる。
VIEというのは、投資先を連結する際の基準の一つで、このたびの処罰の解説文には明確に「VIEスキームが監督管理の対象となった」と書いてある。
たとえばアリババを例にとるなら、2014年5月にアリババグループはニューヨーク証券取引所での上場に成功している。中国政府は「中国のインターネット産業に対して外資が参入するのを禁じている」ので、本来なら他国の証券取引所に上場することはできないはずだ。だというのに、なぜニューヨーク市場に上場できたかというと、「VIEを利用して、法人登記所在地をケイマン諸島にした」からだ。それでいて実際に稼働しているビジネスの本拠地は浙江省の杭州に残した。