中国大手IT企業の独禁法違反処分はTPP11参加へのアピール
こういったVIEスキーム手法に関して、中国はこれまで黙認してきて、2019年3月7日付のコラム<全人代「一見」対米配慮の外商投資法>で触れた「外商投資法」も、また独禁法もVIEには触れていない。
だから海外の投資者は、中国がいつVIEスキームに制限を加えるか分からず大きなリスクを抱えていたものと思う。
上記の「1」にあるアリババ投資は2000年に誕生してヴァージン諸島で登録し、「2」にある閲文集団は2013年に設立してケイマン諸島で登録している。「3」にある深セン市の豊巣ネットワークは2019年に豊巣香港有限会社が100%の持ち株となって設立されているものの、「3」に書いたように「豊巣ケイマン」もある。
VIEスキームを利用したからと言って、必ずしもアメリカやイギリスなどの証券取引所に上場するかと言ったらそうではなく、豊巣は深セン取引所に上場しているし、アリババもテンセントも香港上場へとシフトしている。
それは言うならば、香港デモなどによって香港の金融が揺らぐのを防ぐためで、大陸(北京政府側)の大手企業が香港で上場していれば香港の富裕層は北京を重んじるし、となれば香港政府をより動かしやすくなるという計算も働いている。
だからこそ、なおさら、北京政府は大陸の大手IT企業に対しても、「こんなに厳しく独禁法などで監視していますよ」と国際社会に見せたいわけだ。
中国企業を米上場廃止する監査方案が可決
一方、12月2日、米下院は、アメリカの監査基準を順守しない中国企業の米上場を廃止できる法案を全会一致で可決した。同法案はすでに上院で可決されており、3年連続で米公開会社会計監視委員会(PCAOB)の監査基準を順守できなければ、米国内の証券取引所での上場が禁じられることになっている。
しかし中国では会計事務所が監査調書を中国から持ち出すことを禁じている。
したがって、ここは米中両国のせめぎ合いということになろう。
このたびの独禁法違反処罰は、こういうこととも連動している。
それもあり、独禁法や外商投資法などが、これまで言及しなかったグレーゾーンのVIEスキーム利用に関しても、今後は監視の対象とすることを表明したのが、今般の中国大手IT企業への独禁法違反処罰であるということもできるのである。
習近平政権、TPP11参加準備への一環
さらにこの度の独禁法違反処罰は、対外的には「中国も独禁法を守る国です」ということを国際社会にアピールすることに主眼があり、これは習近平政権のTPP11参加への準備の一環であると位置づけなければならない。
これを「中国政府が民間企業にまで介入し、コントロールを強化し始めた」などと、「よくある視点」で分析したのでは、中国の真相を見誤るのではないかと懸念する。注意を喚起したい。
(このコラムは10月27日に中国問題グローバル研究所のウェブサイトで公開された論考を転載した)