最新記事

情報科学

インチキ陰謀論「Qアノン」がばらまく偽情報を科学は止められるか

CAN SCIENCE STOP QANON?

2020年11月4日(水)17時40分
デービッド・H・フリードマン

NW_QAN_04.jpg

Qアノンは暴力の温床にもなっている VICTOR J. BLUE-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

そんなQアノンと戦うツールとしては、例えば「ホウクシー(でっち上げ)」と呼ばれる特殊な検索エンジンがある。これを使えば、もっともらしいけれど発信源の怪しい偽情報を検出し、その拡散ルートを追跡できる。また自分のツイッターフィードから疑わしいコメントを削除することも可能だ。

これで「新しい偽情報の生成をリアルタイムで検知できる」と、インディアナ大学のコンピューター学者フィリッポ・メンツァーは言う。彼は同大学のソーシャルメディア研究所を率い、Qアノンなどの陰謀論グループを監視し、得られたデータを誰とでも共有できるソフトやアプリケーションを開発している。

メンツァーによれば、Qアノンで人気の書き込みにはたいていホットな話題(人権派のデモの暴力化、マスク着用の義務化など)が含まれ、いくらかの真実も織り込まれている。それを入り口にして人々を引き付け、誰もが腹を立てそうな、しかも自分たちの世界観に即した話をでっち上げる。それがQアノン流だ。

アカウントの削除には限界

この8月、Qアノンのネットワークでは「行方不明になっていた児童39人が1台のトレーラーで発見された」というジョージア州の「事件」が猛烈に拡散された。そして「やはりピザゲートの話は本当だった」「トランプによる人身売買撲滅作戦が始まったぞ」などの書き込みがネットワークを駆け巡った(実際には警察の2週間にわたる集中捜査で行方不明の児童合計39人が見つかっただけで、個々の事案に関連はなく、発見場所もでっち上げだった)。

単純に考えれば、偽情報発信源のノードを徹底的にたたけば、その拡散は簡単に止まるはずだ。しかしメンツァーによると、これが実際には極めて難しい。

フェイスブックはQアノン関連のグループやページの削除に踏み切ったが、個人アカウントの削除には腰が重い。削除対象が個人になると、表現の自由の問題が出てくるからだ。「この書き込みには虚偽が含まれています」といった警告も効かない。そんな警告自体が大きな陰謀の一部と解釈されてしまうからだ。

異なるプラットフォームのノードとノードをつなぐエッジを取り除くほうが効果的かもしれない。例えば、プラットフォーム間の投稿共有をブロックする仕掛けを置くという方法だ。そうすればQアノンの主張が拡散するのに時間がかかり、読んだ人も即座に反応するのではなく、より根拠のある意見に触れ、より冷静に考える時間ができるはずだとメンツァーは考える。

ちなみにフェイスブックは8月に約3000のQアノン関連グループとページのアカウントを凍結したが、ユーザーは別のプラットフォームで簡単に仲間と再会を果たしていた。

リツイートの回数や「いいね」の数などを隠す手もある。メンツァーによると、「こういう数字が大きいと、それだけで信用できそうに思えてしまい、何も考えずにシェアしたくなる」ものだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦争を警告 米が緊張激化と非難

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 取引禁止

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中