最新記事

情報科学

インチキ陰謀論「Qアノン」がばらまく偽情報を科学は止められるか

CAN SCIENCE STOP QANON?

2020年11月4日(水)17時40分
デービッド・H・フリードマン

magw201104_Q2.jpg

トランプ大統領は8月までにツイッターで129回もQアノンに触れた JONATHAN ERNST-REUTERS

ツイッターも、規約違反を理由にQアノン関連のアカウント約7000件を停止したという。だが残念ながら、こうした対応は遅きに失している。今までのところ、インターネットの技術は「偽情報の拡散を防ぐよりも助長する役割を果たしてきた」と指摘するのは、現役の陸軍将校で、スタンフォード大学から工学博士号を授与されているトラビス・トランメルだ。

ジョージ・ワシントン大学の物理学者ニール・ジョンソンも、Qアノンの問題は「そこで活動している諸個人のレベルを越えているし、SNSの運営会社が対応できる問題でもない」と言い、解決には「新しい科学」が必要だと指摘している。

ネットワークの地図づくり

ジョンソンとトランメルは、Qアノンの勢力圏を地図化して把握し、その生態を解明しようとする新しい科学の最前線にいる。アメリカ民主主義の諸制度を脅かす偽情報の爆発的拡散を食い止める方法の研究。それを「情報疫学」と呼ぶ。

その名のとおり、情報疫学は感染症の予防法を研究する疫学から派生した新しい分野。ウイルスや細菌が人体の生きる仕組みを利用して増殖するのと同じで、偽情報も民主主義の諸制度を利用して拡散していく。その実態を解明し、拡散を防ぐ方法を見つけるのが情報疫学だ。

現時点で、Qアノンのネットワークの規模は分かっていない。なにしろ元祖「ノード」のディアスだけでもツイッターとYouTubeに35万以上のフォロワーとサブスクライバーを持ち、毎月何千万もの新たな「エッジ」を生み出している。今年の下院選の立候補者の中にも、Qアノンのノードが70人もいるという。

実態解明の手掛かりとして、彼らのネットワークの「見える化」に取り組んでいるのはフリーランスの研究者エリン・ギャラガー。彼女はQアノンの草創期から自前のツールを用いて彼らの活動を追跡し、その骨格をつかもうとしてきた。「戦場の地図もなしでは戦いにならない」と思うからだ。

どのソーシャルメディアのアカウントが偽情報を発信し、それがどのように伝わっていくか。それを示すネットワーク地図ができれば、そこに関与しているノードとエッジが一目で分かるはずだ。

ギャラガーはその地図を作る際に、公開された投稿やツイートを自動的にスキャンして偽情報を監視するソフト(非公開・会員限定の書き込みは除外)を使っている。見た目は無数の輝く点と線で構成された抽象画のようだが、これで偽情報の生成・拡散を可視化できる。

それで分かってきたことの1つは、Qアノンが優れて「分散型」のネットワークであり、メンバー間で次々に新しい考えや会話が生まれている事実だ。つまり、特定の人物が「ボット」と呼ばれるソフトを用いて偽情報を大量に複製・拡散しているわけではない。

また小児性愛と人身売買の話だけでなく、新型コロナウイルスに関連してワクチンの接種に反対する議論や、その感染拡大そのものを一部の特権階級による陰謀と決め付ける議論も大々的に流布されている。「こうした思い込みをする人には、権威を信用しないという共通点がある」と、ギャラガーは言う。どうやら、Qアノンは「アンチ権威」派のたまり場になっているらしい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中