最新記事

アメリカ大統領選 中国工作秘録

中国反体制派の在米富豪に、怪し過ぎる「共産党スパイ」疑惑

THE SUSPICIOUS MR. GUO

2020年11月20日(金)17時20分
ニック・アスピンウォール(ジャーナリスト)

GTV傘下メディアは、郭がフーのような在米活動家を中傷する目的でも利用されてきた。オンラインメディアのGニュースに掲載された「ボブ・フーはフェイク牧師」という記事は、フーによる人身売買やセクハラ疑惑(証拠は示されていない)や、フーの妻が所有するワイナリーの酷評を延々と書き立てている。

あまりにもばかばかしいとフーはその内容を一笑に付すが、この記事が出たこと自体には危機感を覚えたという。「こいつは本気で私の家族を脅すつもりだと初めて思った」

萎縮する在米活動家たち

フーの自宅前で起こった「抗議デモ」は、敷地内への不法侵入と見なされる行為が1件あった以外は平和的で、郭自身も暴力は許さないと明言してきた。

だが、アメリカの非営利組織、共産主義犠牲者記念財団のエイドリアン・ゼンツ上級研究員は、断定を避けつつも、最近の郭の行動は中国共産党の「影響工作のように見える」と語った。「(ターゲットの)自宅前に人々を送り込むなんて、共産党の圧力戦術のようだ。これでは郭文貴は何者なのかという疑問を抱かざるを得ない。共産党のスパイなのか?」

2018年に郭の関連会社の仕事を請け負ったコンサルティング会社ストラテジック・ビジョンは、郭のことを「反体制活動家ハンターだ」と裁判書類で明言している。同社は、郭から在米の中国反体制活動家のリストを渡され、共産党最高幹部と関係があるとして調査を依頼されたという。

フーの自宅前の「抗議デモ」は、テキサスの田舎町でちょっとした騒動になった。9月26日にちらほら現れ始めた郭の支持者は、10月5日には50人ほどに達した。このためフーの家族は、市警の護衛を受けて安全な場所へ移されたが、その後も郭の支持者たちは近隣住民を戸別訪問して、フーとチャイナエイドを非難するビラを配って歩いた。

この騒動を受け、パトリック・ペイトン市長は「ミッドランドの住民は、市民を脅す人々とは仲良くなれない」と苦言を呈した。すると郭は激怒して、「こいつに代償を払わせなければならない」と、新たに支持者に呼び掛けた。

郭のターゲットになったのは、フーだけではない。南カリフォルニアに住む中国民主活動家の呉建民(ウー・チエンミン)の自宅にも、9月23日から10月6日までの2週間に、郭の支持者が4回やって来た。「うちの前の道路の縁石に座って、口汚い侮辱の言葉を叫び、それをツイッターで生中継していた」と、呉は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中