最新記事

海洋生物

シャチが船に体当たりする事故が頻発、原因は?

Killer Whale Boat Attacks 'Getting Worse and Worse,' Scientist Says

2020年11月16日(月)17時00分
ハナ・オズボーン

今年10月、ポルトガル沖で2時間にわたり体当たりを繰り返したシャチ  Halcyon Yachts - International Yacht Delivery/YouTube

<ジブラルタル海峡周辺を通る船に対して、3頭のシャチが執拗に体当たり攻撃を仕掛ける事例が相次いでいる。これまでにないシャチの行動の意外な原因とは>

スペインとポルトガルの沖を通る船にシャチが体当たり攻撃を加える事件が増えている。異常な行動だが「ひどくなる一方だ」と、海洋生物学者らはいう。

今年の夏以来、この海域を航行する船の乗組員から、シャチが、時には何時間も船に体当たりを続けたという報告があがっている。このような行動は、以前はごくまれにしか報告されていない。シャチはなぜ船を攻撃目標にするのか。

シャチに体当たり攻撃を受けた船の報告が増えた後、スペイン当局は報告があった海域において、全長15メートル未満の船の航行を禁止した。それより小さい船は、全長10メートルに達することもあるシャチの攻撃に耐えられないかもしれないからだ。2時間に及んだ攻撃の様子は、下の動画で見ることができる。

数名の科学者が非公式の調査チームを結成し、体当たりの事例を調査した。そこでわかったのは、攻撃のほとんどが 同じ3頭の若いシャチによって行われているということだった。観察を続けたところ、この3頭が怪我をしていることもわかった。

怪我の原因が船への攻撃によるものかどうかは不明だ。

いずれにせよ、攻撃は続いている。「ひどくなる一方だ」と、調査チームの一員である生物学者のルノー・ド・ステファニスはBBCに語った。

舵を狙う意外な理由

シャチは船や乗員を襲う気なのか。あるいは船に対するある種の「復讐」なのか。研究者はむしろ、遊びに関連しているのではないかと推測する。

同じく調査に関与した海洋哺乳類研究コーディネーター(CEMMA)の研究者ルース・エステバンはBBCに、シャチが「常に舵を標的にしているようにみえる」と語った。船の動きを司る部分だからかもしれない、と彼女は言う。

「場合によっては、舵を動かすことで、船全体を動かすことができる。ビデオのなかには、船をほぼ180度回転させていた例もあった」と、エステバン。「(高い知能を持つ)シャチは、自分の力で本当に大きなものを動かしたことがわかり、ものすごくいい気分になるのかもしれない」

「私はシャチが狩りをするところのを見たことがある」と、ルノーは言う。「シャチは狩りをするとき、声を出したり、姿を見せたりしない。気づかれないよう獲物に忍び寄る。シャチがマッコウクジラを攻撃するところを見たことがあるが、それは猛烈な攻撃だった。だがこの3頭は違う。これは遊びだ」

船とシャチの様子を観察した結果、主に攻撃に関わっているのは、特定された3頭のシャチのうちの 2頭だった、とルノーは言う。「たいていはこの2頭だ。大変な興奮状態になっている」と、彼はBBCに語った。「ただ、遊んでいるだけだ。とはいえ、ますます始末に追えないものになっている」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米副大統領、グリーンランド訪問 「デンマークの保護

ビジネス

米ミシガン大消費者調査、5年先インフレ予想4.1%

ワールド

米関税に「断固たる対抗措置」、中国国営TVが短文サ

ビジネス

米2月PCE価格+2.5%、予想と一致 スタグフレ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中