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「優等生」スイスは人命より経済優先 コロナ第2波

Switzerland Is Choosing Austerity Over Life

2020年11月12日(木)18時55分
ヨゼフ・ドベック(外交政策研究所フェロー)

感染者急増で陽性率は5割超える他、いまだに一部ロックダウンにも踏み切らず(11月7日、チューリヒ) Arnd Wiegmann-REUTERS

<世界一の陽性率や崩壊寸前の医療システムも何のその、「医療より経済が心配」と言うスイスの落とし穴>

スイスは新型コロナウイルス感染が急拡大しており、このままいけばヨーロッパで一番の感染拡大地域になる勢いだ。人口比の感染者数はすでにスウェーデンやアメリカの約3倍、欧州連合(EU)諸国平均の2倍に達している。それも検査数が特別多い訳ではなく、検査普及率はアメリカやヨーロッパ諸国の平均と同程度だ。そのなかで検査の陽性率は27.9%と、スウェーデン(8.5%)やアメリカ(8.3%)を大きく上回る。世界保健機関(WHO)によれば、検査陽性率が5%を超えているのはウイルスを制御できていない証拠だ。

パンデミックについてスイス政府に助言を行う立場の専門家たちは、しばらく前から警鐘を鳴らしてきた。同国内の病院は、11月13日までにICU(集中治療室)の対応能力が限界に達する見通しで、今後はICUでの治療をできる限り短期間に抑えることが課題になると専門家は言っている。

平常時であれば、スイスは医療水準が極めて高く、イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ元首相など、世界の著名人や政治家たちが治療を受けるために訪れることで知られている。だが新型コロナ流行下の今は医療態勢がひっ迫し、フランスが逆にスイスの患者の受け入れを申し出ているほどだ。

スイスは「特別」という意識

統治に優れ、道路には塵一つない清潔さと安全さで知られるスイスに、いったい何が起こったのか。答えは単純。政府が、ウイルスを封じ込めるために必要な規制の導入に抵抗してきたためだ。

この春、感染第一波が襲った時、スイスはドイツと同じく大きな打撃を受けることなく乗り切った。入念に計画された全国的なロックダウンが、ウイルスの抑制に功を奏したのだ。ただ、次も慎重に行こうと考えたドイツ政府と違い、スイスは慢心した。

第1波であまり死者が出なかったことで、自分たちは世界の苦しみとは無縁な「特別な国」なのだというかねてからの信仰をますます強くした。スイスは20世紀に一度も戦争や大規模な自然災害を経験しておらず、21世紀に入ってからも一度もテロ攻撃を経験していない。世界的な金融危機の影響もほとんど受けなかった。スイスは世界的な危機に対して免疫がある──スイス人はそう信じてきた。

新型コロナウイルスのパンデミックについても、スイスだけは「例外」と思えた。ベルギーやフランスと異なり、スイスはウイルスへの対処法を知っている──少なくとも国内の雰囲気はそうだった。スイス国民に対する政府のメッセージはこうだった。「(ウイルスのことを心配し過ぎるより)経済活動の再開に重点を置こう」

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