最新記事

香港

【香港人の今5】「香港人には3種類しかいない。順民、暴民と移民だ」18歳女子大学生

RISING LIKE A PHOENIX

2020年11月27日(金)17時30分
ビオラ・カン(文・写真)、チャン・ロンヘイ(写真)、雨宮透貴(写真)

勇武派の抗議者 大学生・盈(18) PHOTOGRAPH BY CHAN LONG HEI

<香港の状況は絶望的に悪化している。11月23日には民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)らが収監された。香港人は今、何を思い、どう反抗しているのか。16人の本音と素顔を伝える(5)>

勇武派の抗議者 大学生・盈(18)

2019年に高校生だった盈(イェン)は、平和的なデモから抗議活動に参加し始めた。

6月12日、逃亡犯条例の成立を阻止するためデモ隊が立法会前に集まったとき、彼女は初めて催涙ガスに追われ、恐怖で泣き出した。涙には素手同然の市民を追い詰める警察への怒りも混ざり、この気持ちに背中を押されて7月からデモの最前線に立った。

多くの香港人と同じく、盈にとって「大学の攻防戦」は忘れられなかった。2日かけて香港中文大学を守り切ったと思いきや、次により激しい香港理工大学での戦いが待っていた。

仲間と十字路で放水車やゴム弾の射撃を受けた夜、爆音が聞こえた。理工大学にいる全員を暴動罪で起訴すると警察が発表し、実弾使用を宣言した。隠れていた盈は、仲間とキャンパスを脱出するため、さまざまな方法を試みた。

高所からロープで飛び降りても、草むらで9時間待機しても上手くいかない。頭を打って血を流しながらも、とにかく逃げ出したかった。「ようやく安全な場所にたどり着いたら、親が迎えてくれた。ほぼ1カ月会ってない母は、ただ笑って大丈夫と言った」

彼女はたくましくなった。国家安全維持法に対しても、恐れる色は見せない。しかし、この法律のせいで抗争用装備を持つことさえ難しくなった。

前線の抗議者は途方に暮れるが、彼女は策を変える必要があると考えている。「(デモ隊同士の)閉鎖的空間から離れ、関心を持ち続けるよう市民へ路上で呼びかけることが重要だ。政治理念が違う人と意見交換しながら抗争し続ける」

自分の知識を充実させることも大事だと思い知った彼女は再度大学に戻り、現実味が欠けた「いつも通りの生活」を送っている。

盈は「光復香港・時代革命」を最初に掲げた香港本土(独立)派政治活動家・梁天琦の言葉を思い出す。「香港人には3種類しかいない。順民(従順な民)、暴民(抵抗者)と移民だ」

彼女は「暴民」としてここに残るつもりだ。

magHK20201127-5-2.jpg

国家安全維持法の逮捕者 J(19) PHOTOGRAPH BY YUKITAKA AMEMIYA

国家安全維持法の逮捕者 J(19)

昨年の7月1日は香港国家安全維持法の施行の翌日で、香港返還記念日でもあった。デモの許可が下りなかったにもかかわらず、多くの市民が集まった。

Jはスタート地点にたどり着く前、職務質問で荷物を調べられた。携帯電話に貼られた「光復香港 時代革命」のシールが、国家安全維持法違反だと逮捕された。

デモには何回も参加したが、逮捕は初めてなので慌てた。「警察車両で『中国に移送する』と脅された。尋問された際、(警察官が)既に同意欄に丸を付けたDNA取得同意書を渡された。抵抗できないままDNAサンプルを採取された」

約20人しか収容できない拘留室に40人が押し込まれ、30時間の拘束後に釈放された。 

家族は心配したが責めることはなかった。彼自身もデモに参加したことに後悔はないが、シールを持ち出さなければよかったと思う。「昨年の6月から一度も捕まらなかった。シールで失敗するなんて想像していなかった」

今は国外で勉強を続ける。いつか舞台美術について学ぶのを夢見る一方、香港では公正な裁判を受けられないからだ。「香港の法治は死んだ。警察が持っている僕のDNAがどう使われるのか分からない」

異国にいて、抗議活動に積極的に参加する。逮捕の恐れもあるが、いつか香港が必要としたら迷いなく帰るつもりだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送ECB理事会後のラガルド総裁発言要旨

ビジネス

米財務長官、ホワイトハウスに警告 FRB議長解任巡

ビジネス

米ブラックストーン、1─3月期は増益 市場不安定も

ワールド

中国主席がカンボジア訪問、改めて「保護主義対抗」呼
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、アメリカ国内では批判が盛り上がらないのか?
  • 4
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 7
    関税を擁護していたくせに...トランプの太鼓持ち・米…
  • 8
    金沢の「尹奉吉記念館」問題を考える
  • 9
    「体調不良で...」機内で斜め前の女性が「仕事休みま…
  • 10
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中