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2027年に中国を人口で抜くインド、「水不足危機」でスラムには1回4円のトイレも

2020年11月2日(月)11時25分
佐藤大介(共同通信社記者)

朝から晩まで働いて、月収は8000ルピー(1万2800円)ほど。故郷に残してきた家族への仕送りもあり、食費を切り詰めても生活はギリギリだ。ダラビ地区の住宅エリアに居を構える余裕はなく、作業場の隅で寝起きをしている。シャワーはもちろん、トイレもない。公衆トイレの近くにある水道を利用して、時折水浴びをする。だが、公衆トイレにカネを払う余裕はなく、少し歩いた先の排水溝近くで済ませることが多いという。

「去年、母親が病気になって借金を背負いました。ストレスばかりの日々です」

シャミはそう話しながらため息をつき、部屋の片隅に目をやった。そこには、シャミが飼っているウサギが箱から顔を出し、こちらをみつめていた。疲れ切った心を癒やしてくれる存在なのだろう、シャミは嬉しそうに視線を返していた。

世界銀行が2014年に発表したデータでは、インドでは都市部の人口の約24%がスラムに住んでおり、その数は1億人にのぼると見積もられている。また、インドメディアの報道によると、2011年の国勢調査でスラムに住む世帯の3分の1が「周辺にトイレがない」と回答していた。公衆トイレがあっても不衛生な状態で放置され、感染症リスクが高い状態になっているケースも多いという。ムンバイのスラムにある公衆トイレのうち、約8割で水が十分に供給されていないという指摘もある。ダラビ地区で私が訪れた公衆トイレは、いかにも「五つ星」スラムならではの整備された施設だったのだ。

ムンバイは世界で最も地価の高い都市の一つだ。収入が少なかったり、定職に就いていなかったりする人たちは、シャミのように仕事場で寝泊まりするか、粗末な小屋や路上での生活を余儀なくされる。ダラビ地区など、政府が「公認」しているスラムには公的な支援が届きやすいが、そうではない「非公認」のスラムは放置されたままとなる。もちろん、公衆トイレが設置されるはずもない。貧しい者たちが集まるスラムの中にも、歴然とした格差が存在していた。

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