2027年に中国を人口で抜くインド、「水不足危機」でスラムには1回4円のトイレも
部屋を見渡すと、調理器具のほかに洗い場もある。傍らには大きな桶と仕切りのカーテンがあり、体を洗う場所としても使っているとのことだった。トイレは設置されておらず、地区内に点在する公衆トイレを使っている。1回の使用料金は2.5ルピー(4円)だ。
「何度も行けば、それだけ家計の負担になってしまいますから、多くても1日に2回までにしています。朝や夕方は、混んで並ぶこともあります」
そう話すバンミに、夫や息子はトイレを使わずに周囲で用を足すこともあるのではないかと尋ねると、笑いながら「そうかもしれませんね」と答えた。
バンミの暮らすエリアの住民たちが使う公衆トイレは、路地が交差して道のやや広まったところにあった。コンクリートで頑丈につくられた建物には、入り口に管理人の男性が座り料金を徴収している。中に入ると大小それぞれ五つほどの便器があり、薄暗いものの一定程度の清潔さは保たれていた。管理人に、ここで出された排せつ物はどこに行くのかと聞くと、なぜそんなことに興味があるのかと不思議そうな表情を浮かべながら「下水道につながっている」と答えた。それが本当かどうかわからない。だが、管理人は説明を付け加えた。
「ダラビは有名なスラムで人も多いから、政治家がいろいろな支援を提供してくるのです。ここにトイレがあるのもそれが理由ですよ」
ダラビ地区は貧困層の集まるスラムではあるものの、住宅エリアには水道や公衆トイレがあるほか、電気も通っている。最低限の生活インフラが確保されているせいか、狭い部屋からは「貧しさ」は伝わってくるものの、暮らしている人たちに悲愴感はあまりない。犯罪の発生率も低く、NGOのスタッフによると、スラムの中でも「五つ星」の場所だという。それだけに、スラムではあるものの、一定の収入がある人たちではないと住むことができなくなっている。
「非公認」のスラム
では、「五つ星」のエリアに住めない人たちはどうしているのだろうか。
ダラビ地区で商店などが集まるエリアにある雑居ビルの2階。急なはしごを登って中に入ると、カーテンの縫製を行う作業場があった。部屋には大きな作業台が置かれ、5人ほどの男たちが黙々と作業をしていた。その一人、モハマンド・シャミ(37)はインドでも最貧州のビハール州で育ち、20年ほど前にダラビ地区へやって来た。「ムンバイは金持ちの街。行けば何か仕事があり、稼げるだろうと思っていました」と言うが、現実は違っていた。