最新記事

インド

2027年に中国を人口で抜くインド、「水不足危機」でスラムには1回4円のトイレも

2020年11月2日(月)11時25分
佐藤大介(共同通信社記者)

部屋を見渡すと、調理器具のほかに洗い場もある。傍らには大きな桶と仕切りのカーテンがあり、体を洗う場所としても使っているとのことだった。トイレは設置されておらず、地区内に点在する公衆トイレを使っている。1回の使用料金は2.5ルピー(4円)だ。

「何度も行けば、それだけ家計の負担になってしまいますから、多くても1日に2回までにしています。朝や夕方は、混んで並ぶこともあります」

そう話すバンミに、夫や息子はトイレを使わずに周囲で用を足すこともあるのではないかと尋ねると、笑いながら「そうかもしれませんね」と答えた。

バンミの暮らすエリアの住民たちが使う公衆トイレは、路地が交差して道のやや広まったところにあった。コンクリートで頑丈につくられた建物には、入り口に管理人の男性が座り料金を徴収している。中に入ると大小それぞれ五つほどの便器があり、薄暗いものの一定程度の清潔さは保たれていた。管理人に、ここで出された排せつ物はどこに行くのかと聞くと、なぜそんなことに興味があるのかと不思議そうな表情を浮かべながら「下水道につながっている」と答えた。それが本当かどうかわからない。だが、管理人は説明を付け加えた。

「ダラビは有名なスラムで人も多いから、政治家がいろいろな支援を提供してくるのです。ここにトイレがあるのもそれが理由ですよ」

ダラビ地区は貧困層の集まるスラムではあるものの、住宅エリアには水道や公衆トイレがあるほか、電気も通っている。最低限の生活インフラが確保されているせいか、狭い部屋からは「貧しさ」は伝わってくるものの、暮らしている人たちに悲愴感はあまりない。犯罪の発生率も低く、NGOのスタッフによると、スラムの中でも「五つ星」の場所だという。それだけに、スラムではあるものの、一定の収入がある人たちではないと住むことができなくなっている。

「非公認」のスラム

では、「五つ星」のエリアに住めない人たちはどうしているのだろうか。

ダラビ地区で商店などが集まるエリアにある雑居ビルの2階。急なはしごを登って中に入ると、カーテンの縫製を行う作業場があった。部屋には大きな作業台が置かれ、5人ほどの男たちが黙々と作業をしていた。その一人、モハマンド・シャミ(37)はインドでも最貧州のビハール州で育ち、20年ほど前にダラビ地区へやって来た。「ムンバイは金持ちの街。行けば何か仕事があり、稼げるだろうと思っていました」と言うが、現実は違っていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ブラジル大統領選、ボルソナロ氏が長男出馬を支持 病

ワールド

ウクライナ大統領、和平巡り米特使らと協議 「新たな

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中