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2027年に中国を人口で抜くインド、「水不足危機」でスラムには1回4円のトイレも

2020年11月2日(月)11時25分
佐藤大介(共同通信社記者)

日本貿易振興機構(ジェトロ)の調べによると、地下水を確保するために重要となるインドの降水量は、2000年~2017年の平均量が、1951年~2000年までの平均量よりも7%減少した。一方で、2000年~2017年でインドの人口は約30%増加している。人口と水需要、未処理のまま河川に排出される下水が増える一方で、地下水は減り続けているのだ。

「スラムドッグ$ミリオネア」のロケ地

インドで政治の中心は首都ニューデリーだが、経済の中心となればムンバイだ。旧名である「ボンベイ」の方が、多くの人の耳には親しみがあるかもしれない。古めかしい政府庁舎が中心部に集まるニューデリーとは違い、ムンバイは商都らしく数多くの高層ビルがそびえる。世界経済に影響を与える重要拠点として存在感を高め、インド国内はもちろん世界中から資本が流入しており、ムンバイがあるマハラシュトラ州をインドでトップクラスの「富裕州」に押し上げている。

ムンバイの街を歩くと、目に飛び込んでくる光景が三つある。一つは建ち並ぶ高層ビル、もう一つが日常茶飯事となっている激しい交通渋滞、そしてあちこちに点在するスラムだ。横浜市とほぼ同じ面積に約2000万人(横浜市は約375万人)の人口を抱えるムンバイでは、4割ほどの人たちがスラムに住んでいるとされている。その中には、地方の農村などから「富裕州」へカネを稼ぎにやって来た労働者たちも少なくない。高層ビルとスラムが同居する光景は、富と貧困が交錯するムンバイの現実をそのまま表している。

ムンバイに500ほどあるとされるスラムの中でも、最も知られているのが「ダラビ地区」だ。東京ドーム約37個分の広さに100万人以上がひしめき合い、アジア最大のスラムとも称される。アカデミー賞を受賞したイギリス映画「スラムドッグ$ミリオネア」のロケ地にもなったことで、一躍有名になった。

ダラビ地区に入ると、細かい路地が入り組み、迷宮のように街が広がっている。舗装されていない路地に荷物を背負った男たちが行き交い、建物からは機械音が鳴り響く。小さな工場の窓をのぞくと、薄暗い中に差し込んだ日光が、一帯に漂うほこりを浮かび上がらせていた。ダラビ地区には、プラスチックやアルミなどのリサイクル工場や金属加工、革製品作りなどが産業として確立しており、多くの労働者が日銭を稼いでいる。工場エリアと住宅エリアに分かれて、ムンバイという大都市の中にもう一つの都市が形成されているようだ。

スラムの環境改善を支援するNGOに案内されて住宅エリアに入ると、日光の届かない細い路地は昼間でも暗く、排水溝をネズミが走り回っていた。部屋をのぞくと、10平方メートルほどの狭いワンルームに4~5人の家族がひしめきあって住んでいる。靴の修理工である夫と母、息子の4人で暮らすメラ・バンミ(40)の住む部屋も、その一つだ。公務員住宅の家政婦として毎月8000ルピー(1万2800円)の収入を得ているが、プロパンガスの価格や電気料金が上がり「生活がより苦しくなりました」と言う。息子が高校を出ても職が見つからないのも気がかりだ。

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