決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性
THE TRUTH OF THE THREE GORGES DAM
相反する課題をどう解決する
環境破壊と汚職にまみれた三峡ダムの「悲劇」は、取りも直さず、今夏の豪雨による被災者の悲劇に通じている。
今年7月下旬、香港メディアが豪雨の甚大な被害を報じる一方、管制メディアの新華社ネットは洪水を擬人化し、ちゃかしてみせた。人民網は、湖南省で水没した名所、鳳凰古城の惨状を「まるで桃源郷にいるようだ」と美化した。
無論、SNSには人々の怒りの声があふれ返ったが、それらは瞬時に中国政府によって削除された。戦前、魯迅が慈しんだ「声なき民の声」は今も昔と同じように記録に残ることはない。
現在、中国では長江上流の金沙江に巨大なダムを次々に建設している。最先端技術を誇る烏東徳ダムは一部稼働を始めた。渓洛渡ダムは発電量1万3860メガワットで世界第3位だ。これに向家覇ダムと白鶴灘ダムを加えたダム4基の発電量は、三峡ダムの発電量の2倍になる。
こうしたスーパーダム群が、三峡ダムの堆砂を少しでも減少させるために役立つのか。あるいは、中国のはるか奥地まで堆砂問題を拡大させようとしているのだろうか。
「これらのダムには、三峡ダムの堆砂を軽減する目的もありました」と、前出の黄光偉教授は言う。
「しかしダムをいくつ造っても、堆砂や洪水、水質汚染、水問題などをバラバラに研究していては問題解決にならない。問題を1つ解決しても、さらに出てくる問題のほうが多いのが現状です。研究者は『学融合』して協力し合い、統合的なアプローチをすることが大事。私自身は、今後は生態系の復元が最も大切なポイントだと考えています」
三峡ダムは、今後も決壊するかどうかに関心が集まるだろう。だが真の問題は、上流の河床上昇と下流の河床低下という、相反する課題をどう解決するかだ。海岸浸食と生態系の破壊という根深い問題も秘めていることが浮き彫りになった。
国民不在の政治体質はさらに根深い。容易ならざる事態はこれからも続く。
<2020年10月13日号「中国ダムは時限爆弾なのか」特集より>