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「千人計画」の真相――習近平の軍民融合戦略で変容

2020年10月22日(木)22時53分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

習近平の軍民融合戦略で変容した「千人計画」

10月20日付のコラム<習近平の軍民融合戦略と、それを見抜けなかった日本>に書いたように、習近平は2012年11月の政権発足から、直ちに「軍民融合戦略」を練り始め、2013年から2014年にかけて阻害要素となっていた軍の利益集団を反腐敗運動によって撲滅させ、2015年から本格的に運用し始めた。
真っ先に姿を変えたのは「千人計画」である。

「民の衣を着て軍を発展させる」のだから、すべての「民」のハイテク技術は「軍民融合」の中に組み込まれていく。

軍民融合戦略は、中国全土の隅々にまで行き渡っているので、当然のことながら、前項で示した「千人計画」協力組織はすべて軍民融合戦略の中に含まれる。

その内、中国科学技術協会こそが、2015年に日本学術会議と覚書を結んだ組織であり、中国科学技術協会は2013年に中国工程院との協力関係を締結しており、かつ千人計画の協力組織には「統一戦線部」があることを見逃してはならない。外専局があるのは、「外国人を含む」からである。それは習近平の「軍民融合戦略」によって「外国人中心へとシフト」して姿を変え、「民の力を借りて、経済力と共に軍事力を増強せよ」という目的に変わっていった。

日本学術会議の元幹部や会員が千人計画の中に「個別」に入っていたとしても、背後にはこれだけの組織と戦略が動いていることを肝に銘じるべきだろう。

もちろん、日本企業も例外ではない。

習近平の軍民融合戦略は功を奏し、ついに中国の軍事力がアメリカの軍事力を凌駕してトップに立ってしまった。その事実をアメリカ国防総省(ペンタゴン)が"China Now Tops US in Shipbuilding, Missiles, and Air Defense, DOD Says" で認めている。

中国の経済力と軍事力増強のために徹底して協力し支援してきたのは、結果的に日本だ!

学者も政府もそしてメディアも、この真実から目を背けないで欲しいと心から願う。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。


中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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