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「千人計画」の真相――習近平の軍民融合戦略で変容

2020年10月22日(木)22時53分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

この人たちは主として国家人事部が主催する「人材市場」に集まり、ベンチャーキャピタルとの契約を成立させたり、さまざまな税制優遇などを受けながら「留学人員創業パーク」で孵化期を経て社会で創業したりなどをして中国のハイテク化と経済成長に寄与してきた。私は当時留学人員の足跡と現状を追ってサンフランシスコやシリコンバレーはもとより、ニューヨークやパリなど、世界各地を飛び歩いて『中国とシリコンバレーがつながるとき』という本に実態をまとめた。

千人計画は別物:トップクラスの外国人研究者を大学等に

中国人の博士たちが祖国を目指して続々と帰国する流れを受けて、ノーベル賞受賞者のアメリカ国籍中国人である楊振寧博士が2003年に帰国した。帰国と言っても彼は1945年にアメリカに留学したので、中国での国籍は「中華民国」。そのときは「アメリカ国籍」を持っていた。彼は文革や天安門事件をアメリカで見てきたので、中国に戻ってもなお共産党一党体制に対する不信があったのだろう、アメリカ国籍を捨てようとはしなかった。当時の胡錦濤国家主席は楊振寧に清華大学の元学長室をあてがうほど、楊振寧を大切にした。

そしてあるとき、彼が高齢になってもなお、大学の学部生を相手に熱心に講義しているのを胡錦涛が見て感動し「なぜか」と聞いたところ、楊振寧は「科学者は自分の知識を次世代に伝えてこそ、その役割を果たすことができるのです。そうでないと、科学の発展は、そこで止まります」言ったのである。

この言葉に感動した胡錦濤は「千人計画」を提起し、「次世代を育てるために、外国人専門家を含めた海外人材を、中国の大学や研究所に派遣する」という事業を提起した。これは前項で示した第9次五ヵ年計画の留学人員帰国推進事業とは全く別の概念である。「外国人を含めた」と明記したのは、楊振寧のように外国籍をまだ捨てきれずにいた中国人研究者がいたからである。

ここから発展して「千人計画」は「外専千人計画」と呼ばれることもある。「外専」というのは中国に古くから「外専局」というのがあり、「外国人専門家」をヘッドハンティングしていたからだ。

2008年12月23日、中国共産党中央委員会(中共中央)弁公庁は、「海外ハイレベル人材を招致する計画に関する中央人材工作協調チームの意見」というものを発布した。担当部局は中共中央組織部と人事部(人力資源・社会保障部)で、以下の部局がその傘下で協力する。

――教育部、科技部、中国人民銀行、国務院国有資産監督管理委員会(国資委)、中国科学院、中央統一戦線部(中央統戦部)、外交部、発展改革委員会(発改委)、工業・信息(情報)化部、公安部、財政部、国務院僑務弁公室(僑=華人華僑)、中国工程院、自然科学基金委員会、外専局、共青団中央、中国科学技術協会

 (詳細は『「中国製造2025』の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』)

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