最新記事

事件

「治安当局者がパプア人牧師射殺に関与」 インドネシア政府調査チームが公表

2020年10月22日(木)14時11分
大塚智彦(PanAsiaNews)

牧師射殺事件の現場は急峻な山間地 KOMPASTV / YouTube

<パプアの牧師の死にはインドネシアの政治や人権の醜い実態が詰まっていた>

インドネシア東端に位置するパプア州の山間部で9月19日にパプア人牧師が射殺された事件が発生してから1カ月。行き詰っていた真相解明を巡る調査で政府が任命・編制した「調査チーム」が10月21日、牧師射殺に治安当局が関与していた証拠を発見したと明らかにした。

政府側の調査チームが治安当局の関与濃厚との結論に達したことで、事件は当初から指摘されていた陸軍兵士による犯行の可能性が極めて強くなり、真相解明に向けて大きく進展した。

マフード調整相(政治・法務・治安担当)の指示で編成された政府の「調査チーム」による真相解明は治安当局のメンバーが含まれた人選などから「中立で公正な調査は期待できない」と人権団体やマスコミなどから批判を受けていた。

しかし、この「調査チーム」とは別に人権問題を専門に扱う大統領直轄の独立組織「国家人権委員会(Komnas HAM)」の調査団が独自に実態調査に乗り出した。

人権委は近く調査結果を発表するとしながらも「政府も治安当局も我々の独立した調査結果に耳を傾けるべきだ」として暗に「陸軍兵士の犯行」を示唆していた。

このため政府調査チームは先手を打つ形で「調査は終了し間もなく結果を公表する」と表明。犯行に関係した疑いが浮上していた治安当局の代表も加わった政府調査チームの結論に注目が集まっていた。

現地の協力なく不十分な調査で結論

9月19日にパプア州山間部のインタンジャヤ州ヒタディパ地区でパプア人のエレミア・ザナンバニ牧師が正体不明の男に射殺された。陸軍や警察は事件当時兵士や警察官は現場付近にいなかったとして「武装犯罪組織による犯行」を当初から強く主張していた。治安当局が「武装犯罪組織」というのは反政府抵抗組織「西パプア民族解放軍(TPNPB)」を示している。

これに対しエレミア牧師が所属するキリスト教会組織や地元メディアは、現場付近でTPNPBの掃討作戦を行っていた陸軍の兵士による射殺であると主張。真っ向から対立する見解となった。

このため政府主導の調査チームが派遣されたが、その人選に疑問を抱く現地教会組織は受け入れを拒否、現場付近の住民も山中奥深くに避難してしまった。このため政府調査チームは満足な調査、事情聴取もできなかったとされている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送NY外為市場=ドル上昇、米中緊張緩和への期待で

ビジネス

トランプ氏、自動車メーカーを一部関税から免除の計画

ビジネス

米国株式市場=続伸、ダウ419ドル高 米中貿易戦争

ビジネス

米経済活動は横ばい、関税巡り不確実性広がる=地区連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    ウクライナ停戦交渉で欧州諸国が「譲れぬ一線」をア…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中