主戦場ペンシルベニアを制するのはトランプか、バイデンか
Inside the Fight for Pennsylvania
ペンシルベニアでの選挙集会で聴衆に向かってマスクを投げるトランプ(10月) JONATHAN ERNST-REUTERS
<今年の大統領選で「最重要州」と見なされるペンシルベニア州──人口動態や産業構成から見てもアメリカを象徴するこの州に懸ける両陣営の本気度は>
それは忘れたくても忘れられない悪夢。民主党大統領候補ジョー・バイデンとその陣営はこの夏、何度もその悪夢にうなされたはずだ。4年前(建国240周年の節目の年だった)の11月、事前の世論調査で一貫してリードしていた民主党の大統領候補ヒラリー・クリントンは、建国の地ペンシルベニア州の投票で1ポイントに満たない僅差で敗れ、当てにしていた選挙人20人をそっくり失い、共和党候補ドナルド・トランプに大統領の座を奪われたのだった。
同じ失敗は許されない。政策で負けるはずはないから、問題は戦術だ。新型コロナウイルスの感染爆発を受けて、バイデン陣営はリアルな(人と人との接触を伴う)選挙運動を「自粛」していた。しかし新型コロナを「ただの風邪」と見なすトランプ陣営は4年前の成功体験をなぞるように、リアルで派手な選挙集会を続けていた。運動員もリスクを覚悟で何百万軒もの戸別訪問を行っていた。
だから秋が来ると、バイデン陣営は戦術を変えた。候補者自身が先頭に立ってペンシルベニア州の各地に出向き、有権者に顔を見せ、語り掛けるようになった。
この戦術転換を促したのは、9月26日にABCニュースとワシントン・ポスト紙が発表した共同世論調査の結果だ。バイデンのリードは10ポイントあったが、「とても熱心」に支持する人は51%のみ。対するトランプには「とても熱心」な支持者が71%もいた。「これで非常ベルが鳴り響いた」と陣営幹部は言う。
「ペンシルベニアは絶対に落とせない」と、この人物は本誌に語った。「(勝つためには)あらゆる手を使う。たぶん勝てると思っているが、もしもここで負けたら、一巻の終わりだ」
なぜか。単純に数字だけ見ても、ペンシルベニアの票は全米レベルの勝敗を大きく左右する。大統領選では一般投票を州ごとに集計し、州の人口(具体的には連邦議会に送り出す議員数)に応じて割り振られた選挙人を選ぶ。ペンシルベニア(20人)を含め、ほとんどの州では1票でも多かったほうが州の選挙人を総取りする。選挙人は全体で538人なので、合算して過半数の270人以上を獲得した候補が勝者となる。
そしてペンシルベニアでは民主・共和両党の支持率が拮抗している。だから大方の予想では、ペンシルベニアが今年の大統領選の「最重要州」と見なされている。一説によれば、トランプがペンシルベニアを制すれば再選の可能性は84%、バイデンが制すれば初当選の確率は96%だ。
国の運命が決まる戦い
人口動態や産業構成で見ても、ペンシルベニアはアメリカ社会全体を象徴している。この州では非大卒・非ヒスパニックの白人有権者(州の中心部に多い)と、大卒で人種的にも多様な有権者(大都市とその郊外部に多い)がほぼ拮抗している。ハイテク、バイオなどの先端産業もあれば鉄鋼やエネルギーなどの伝統産業もある。