中南米でコロナ禍の貧困が拡大 破れる中産階級の夢
政府の支援にも限界
ラテンアメリカ諸国の政府には、米国や欧州で行われている景気刺激策を模倣するような財政余力も欠けている。ほとんどの国の政府は、乏しい税収と膨大な債務に悩んでいる。
ラテンアメリカでも社会的支出が最低水準にあるグアテマラでは、オーラ・カルタジェナさんやエルウィン・ポスエロスさんといった起業家が期待した金融支援も実現しなかった。
2人はグアテマラシティで経営する学校の資金繰りのため、借金を重ね、自動車や不動産を売り払って25人の職員の給与を賄ってきたが、ついに閉鎖に追い込まれた。
51歳のカルタジェナさんは、引っ越してきた小さな家のリビングで、涙を堪えながら「金に換えられる資産は何もない。すべて借金の抵当になっている」と語った。
主要航空会社からエネルギー企業に至るまで、大企業の多くも従業員のレイオフや事業の閉鎖に追い込まれている。
エコノミストらは、今回の危機によって、給与所得を伴う雇用を失い、低賃金で諸手当も少なく保護も弱い非公式セクターへと追いやられる労働者は数百万人にも達すると警告している。
ラテンアメリカ第2の経済規模を持つメキシコでも、左派色の強いロペスオプラドール政権でさえ、財政上の懸念を抱えるなかで手厚い救済措置を回避している。アナリストらによれば、多くの国内中産階級を含む最大1000万人が貧困に陥るという。
メキシコ市の無料給食所の外では、カルロス・アルファロさんが、77歳の母親と2人の子どものために、シチューとライス、パンの受け取りを待っている。51歳のアルファロさんはウーバーの運転手の傍ら、個人でクリーニング店を営んでいた。
仕事は干上がり、配給に頼らざるをえなくなった。「配給を求めて並ぶことになるとは想像もしなかった」と彼は言う。
国連世界食糧計画の予測によれば、今年、ラテンアメリカでは1600万人が深刻な食糧不足に直面する可能性があるという。
ラテンアメリカ最大の経済大国ブラジルでは、極右のボルソナロ大統領が率いる政府が、社会福祉支出のために財政緊縮政策を放棄し、短期的ではあるが貧困を抑制している。
だが、ブラジル政府自身も長期的には持続不可能と認めるほど福祉への支出を行っているにもかかわらず、生活水準の向上をめざしていた労働者たちは厳しい状況に直面している。
1カ月ですべてを失う
21歳のダグラス・フェリペ・アルベス・ナシメントさんは、パートタイムの建設労働者として数年を過した後、今年初め、繊維メーカーに就職するためにサンパウロに引っ越してきた。
給与は、部屋代を払い、基本的な家具などを揃え、高校卒業資格を取り直しにかかるには十分だった。だがCOVID-19が襲来したとき、真っ先に解雇された従業員の1人はナシメントさんだった。
7月になると、彼は滞納した家賃を払うために家財を売り払い、カトリック系の救貧団体に食料と暖かい衣類を頼るようになった。
「この3カ月で私が築いてきたものは、パンデミックの1カ月ですべて失われてしまった」とナシメントさんは言う。
(Adam Jourdan記者、Aislinn Laing記者、Maria Cervantes記者、Diego Oré記者)
(翻訳:エァクレーレン)


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